K-on!

□夕暮れ猫
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長い沈黙があたしたちを包む。
涙は止まった。だけど苦しい心。
心臓が、ドクドクドクと、鼓動が速くなる。
だまれ、だまれ、唯に聞こえるだろ。

「……りっちゃん。」

耳元で唯が囁く。
吐息が耳を擽って、ちょっとだけ笑った。

「私はさ、泣いてるりっちゃんは見たくないな。」
「なんだ、それ。」

ぐい、と肩を掴まれて押され、そしてまた引かれ、そのままキスをされる。

「…だいすきな人には、笑ってて欲しいよ。」
「……ばか。」

今度はあたしから、キス。
一回だけじゃ足りなくて、貪るように何回も、何回も。
息ができなくなって苦しいけど、けれど、目の前の彼女しか見たくなかった。見えなかった。
ああそうだこのまま。このまま時間が止まってしまえばいい。素直にそう思う。

「りっちゃ、なんか今日、激し、」

ぴたり。
唯の苦しそうな声に気付き、キスをやめた。
唯の瞳と頬は熱を帯びて、どこか色っぽかった。

「唯は…あたしを置いていかない、よな。」

とっさに出た言葉。
そうだ、あたしが1番恐れていた事。
それは…

「え、」

唯に、澪に紬に梓に、置いていかれる事だったんだ。
可愛くてよくモテて勉強ができてベースも完璧な、澪。
お金持ちで綺麗でキーボード捌きがすごい、紬。
後輩なのにあたしよりしっかりしててギターもうまくて可愛い、梓。
そして、音楽をやっている者なら必ず憧れるであろう、絶対音感をもっている、天才の、唯。
置いていかれたくないと思った。
だから、必死で練習した。
ドラムを死に物狂いで叩いた。
豆ができて、それでも叩いた。
必死だった。怖かったんだ。
でも、あたしの走り癖は直らなかった。
澪には呆れられて、梓には溜息つかれて、紬には苦笑いされて。
辛くて、涙が出た。

「あたしには向いていなかったんだよ、ドラムは。」

思った事が口から漏れる。
その瞬間、唯の顔が怒りに満ちた顔になった。
私の肩を掴んでいる手に、急に力が篭った。

「ゆ、唯、いた、」
「私はりっちゃんのドラム大好きだよ!!」
「っ」
「走り気味でもなんでも、それでもみんなの音を引っ張ってくれるりっちゃんのドラム、大好きだから!だから…、」

そこまで言って、唯の手から力が抜けた。

「りっちゃんは、ドラムじゃなきゃ、ダメ、なの。
向いていないとか、向いているとかじゃなくて、私は、りっちゃんじゃなきゃ、絶対に嫌。
りっちゃんのドラムのないバンドなんて、放課後ティータイムなんて、そんなの糞喰らえ、だよ。」
「ゆい…。」
「澪ちゃんだって、呆れながら実はりっちゃんのドラム大好きなんだから、自信持って、りっちゃん。」

夕日をバックにして、唯はまるで、そうまるで女神みたいな笑顔をあたしに向けた。
胸の奥の蟠りが消えていく音が聞こえた。

「…いいの?あたしみたいな、なんの才能もない奴なんかで…。」
「だぁかぁらぁ、りっちゃんじゃなきゃダメ、って言ってるじゃんか。」

これ言うの結構恥ずかしいんだからね。
唯はそう言って、顔を真っ赤にして照れていた。
思わず、笑みが零れる。
ああ、そうか。あたしは、必要とされているんだ。ここにいていいんだ。

「唯。」
「…んー?」
「…好きだよ。」
「、私も!」

夕暮れを背に。
あたしと唯の影が、重なった。








絶対に離さないで、
(さみしがりで怖がりな私のために)






―――――――――――
10万打小説第二作目。
りっちゃんだって不安になるときあるんだよ、って事書きたかったけど上手く表現できませんでした。
唯はりっちゃんの事大好きだから、その不安ごと包んであげたくなっちゃうんだよ、きっと。

誤字脱字感想報告バッチコイですてへぺろっ
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