K-on!
□夕暮れ猫
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手を伸ばせば届くと信じてた。
でも、彼女はあたしより高いところを行き、高いところを歩く。
まるで、塀の上の猫と、塀の下の人間のように。
唯はすごい奴だ、と思う。
ギターを弄って遊んでいる唯を見て、なぜか知らないけれど、眉間に力が篭った。
あたしのドラムは走り気味でリズムキープもままならない。凡ミスだって何回もある。
けれどそんなあたしに比べ唯は、絶対音感で、しかもその持ち前の才能でギターを短時間で此処まで扱えるなんて、ほんとに、あたしとは大違いだ。
ドラムスティックを握る手が汗ばむ。
あたしは完璧に憧れた。
そう、唯みたいに、なにをやっても上手くいくような、そんな奴に。
「―――…りっちゃん?」
「…、え、ぁ。」
「どしたの、ぼーっとしちゃって。」
「や…少し、考え事、してた。」
「え…そんなのりっちゃんのキャラじゃないよ!」
「悪かったな柄じゃなくて!」
唯と戯れるのは楽しい。
そこは気が合うんだ出会った時から。
でも、演奏のときとなると話が違う。
…バカだ、ただ、あたしは唯がうらやましいだけなんだ。
その才能がほしかった。絶対音感。
そうしたらきっと。
澪にだって梓にだってムギにだって顔向けできる筈なのに。
「…ねえ、」
「なに?」
「なにか、悩み事があるの?」
「っ、へ。」
「私でいいなら、話聞くよ?」
ちがう、悩みなんて事じゃない。
むしろ最低な事を思ってるのに、なんで、唯は。
胸が締め付けられる。
息ができなくなって、涙が出そうになる。
苦しくて、唯が直視できなくて、怖くて。
「…りっちゃん。」
ぎゅう。
ついに涙が零れた瞬間、温かい物があたしを包んだ。
わかってるわかってるよ。あたしはきっと素直になれてないだけなんだな、なんて思っても声にならない。喉がやけるように痛い。
唯の優しい声に、優しい抱擁に、優しい目に引かれ、惹かれる。
やめてくれ、止まらなくなる。
ドラムスティックが落ちて、不快な音を立てて、私の鼓膜を震わせる。
「あ、…っ。」
「よしよし。」
涙が出て、喉が痛くて、胸が苦しくて、息ができなくて。
出るのは鳴咽だけ。
抱きしめられたまま泣いた。泣いた。ただ泣いた。
声は上げれない。苦しい。そうまるで人に怯える子猫のように。