K-on!

□本気と書いて
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「っ、もうだめだ!」

からんからん。
ドラムスティックが、音を立てて床に落ちた。
夕方の音楽室。

「律先輩?」
「…疲れたんだよ」

私と梓。二人きり。
ぽい、と梓からミネラルウォーターを投げられて、ぎりぎりでキャッチ。
…ノーコンだな、おい。

「久しぶりだからかな」
「体鈍って来たんじゃないですか」
「うっせ」

澪は家の用事、唯は憂ちゃんと遊び、ムギもやはり用事。
いつも暇なあたしとって、それは大問題だった。
澪を弄るのがあたしの日課だし…澪分が足りない。
だからそれを楽器で紛らわせようと今試みたのだが、それは無駄に終わった。
こんなに体力なかったかな。なんて。

梓がギターをしまう。
なんだ、今日はあっさりだな。
いつもなら、少し休んだら練習しますよ!なんてツインテ揺らしながら言ってくるのに。

「あの、律先輩」

ドラムの椅子に座っていたあたしに、梓が声をかけてきた。
体を動かすのが億劫で、私は上を向く。

「なんだ?」
「…、二人きりですから聞きますけど」
「?」
「先輩って、人をスキになった事がありますか」

思わぬ質問。
梓らしからぬ言葉に、後ろに倒れるかと思った。
見れば、梓の目は真剣そのもの。
え、マジで聞かれてんのか、これ。

「…、わからん」

歯切れの悪い返事を返すのは、本当にわからないから。
それを悟ったのか、梓は目を伏せた。

「……スキってどういう事なんでしょう」

本当に今日の梓はどうしたんだ。

「…ドキドキとか、そんなんじゃねえの?」
「それだったら私、先輩たちみんなに恋してるみたいじゃないですか」
「へー、あたしにもドキドキするんだ」
「ええ、もちろん。今だって」

くすりと笑う梓。
その顔が妙に大人びていて、私までドキリとする。

「…そ、そうか」

そのせいで思わず声が上擦る。
それが恥ずかしくて、ドラムの椅子から立ち上がって、梓の横を通り過ぎソファーに座ろうとした…
んだけど。

「先輩」
「、え」

ぎゅう

「…っ!?」

抱きしめられた。後ろから。
体が強張る。なぜか心臓が高鳴る。
意味がわからない、なんだこれ、なんだこれ。

「…律先輩、私、律先輩が好きです」

その言葉を言った瞬間、梓の手に力が篭った。
あたしの心臓が、今までにないくらい、跳ねる。

「あ、はははは、ゎ、あたしも好きだぞ」
「先輩の好きと私の好きはちがいますよ」

刹那、梓があたしの体ごと床へと倒れ込んだ。
所謂、押し倒しで、ある。多分。
梓の顔が目の前にくる。体、動かない。

「…ありがとうございます、律先輩。
おかげで自分の気持ちに気付けました」
「あ、あたし、なにも言ってなっ…」
「本気ですよ?私」

梓はそれだけ言って、あたしの体から離れた。
立ち上がらないあたしを置いて、梓はサッサと鞄を持って音楽室の扉へと向かう。

「返事、待ってます」

パタン

音楽室には、呆然としたあたしだけが取り残された。
……やっぱり、意味がわからない



(返事なんて、わかってるくせに)



――――――――――
梓は自分の気持ちには気付いてたけど、律をからかいたくて、さらになりゆきでこうなっちゃったっていう話。

書いたようで書いた事のない梓律でした。
 

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