K-on!

□ナミダ
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そうあれは、いつもと変わらない、夏の日のことだった。


放課後になり、私は教室から部室へと向かい始めた。
うなじに張り付く髪がうっとおしくて仕方がない。


「あ、…
律、迎えに行かなきゃ」


脳裏に浮かんだ愛おしい幼馴染みの笑顔。

―律。
小学生から、ずっと好きだった。
私の太陽、私だけの太陽。
苛められていた私を助けてくれたときの笑顔は心に焼き付いている。

予定を変更し、部室に向かっていた足を二年二組の教室へと向けた。
階段を一段一段踏み締めれば、ギシギシとひどい音がする。

二階からは人気がなくなっていた。
窓から入る風と陽射しが、私の体を蝕む。
二組に向かう足はそのまま。
そして、いつものように扉を開け、幼馴染みの名を呼ぶ、だけ。
そう、呼ぶだけだったのに。

扉を開けた先に見えたのは、唯と…律、その人。
いつもの光景のはずだった。
ただ二人が、

―キスをしていなければ。


「、え」


震える喉からやっと絞り出した声は、やはりその光景を疑うもので。
震えてるのは、やはり喉だけではないけれど、


「っぁ…み、みお!?」


頬を真っ赤に染めた律が、私の方を向き、私の名を呼んだ。
私に見せた事のない顔で。
唯は名残惜しそうに自分の唇に手をやり、やっと気付いたのか、私を見て「澪ちゃんだー」とかなんとか。


「みおっこれは違うんだ!」

「な、にがだよ…!」


頬を熱いなにかが伝う。
嗚呼、私泣いてるんだ。
気付いてからはもう遅い。
律はもう私だけ、いや、私のじゃない。
唯だけの太陽になっちゃってたんだ。
その場にいれなくなって、吐き気がして、咄嗟に外に飛び出した。
後ろから唯と律の呼ぶ声がする。
振り向けない。
戻れない。
もう元の関係には戻れない。





律は、唯のものになったんだ。







 
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