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律と初めて会ったとき。

律と初めて喧嘩したとき。

律と初めて手を繋いだとき。

律と初めて想いを交わしあえたとき。

律と初めてデートしたとき。

律と初めてキスしたとき。

律と初めて繋がったとき。


私はなにかしら、ボロボロ泣いていた気がする。
それは嬉しかったり、悲しかったり様々だったけれど、私は律によく泣かされた。
泣かされたと言っても、私にとってつらい思い出なんて一つもなかった。
律に悪戯されて泣いたって、律が大好きだったから許せた。
こけて痛くて泣いたって、律がいたから大丈夫だった。


あれから私は少しだけ大人になって、悪戯されても、こけても、泣かなくなった。
律はそんな私を見て嬉しそうだった。だから私も嬉しかった。

大学を出て律と二人暮らしを始めて、私はもっと泣かなくなった。
今まで怖かった一人きりの家も、怖くなくなった。
律がいたから。
そうだ。私には律がいるから。
私はもう泣かない。
律に迷惑をかけたくないし、なにより、弱い自分がいやだったから。
だから。


「もうどんなことがあっても…泣かないって決めてたのに」

久々に流れた自分の涙を必死で拭いながら、私は律を見た。
笑っている。

「ばかりつ」
「はいはい」

私の頬にキスをしながら、律はゆっくりと私を抱きしめる。
律の服に私の涙が落ちて、灰色の斑点を作っていく。
その光景すら、懐かしい。
私の背中をぽんぽん叩きながら、律が、一人で話し始める。

「あのな、澪」

「私、澪のこと大好きなんだよ」

「もう何年も一緒にいるけど、そりゃもう本当に大好きなんだ」

「だからさ、澪が誰かに触ったり、触られたりしてるだけで、嫉妬しちゃうんだよ」

「私ばかだからさ。この気持ちの処理のしかたわかんないし、考えるのも馬鹿らしくなってきて」

「ずっと前から考えてたこと、もう澪に言っちゃおうと思って」

そこまで一気に吐き出すように律は言って、少しだけ私から離れて、柔らかな目をそのまま、私に先程言った言葉を、もう一度囁いた。

「結婚しよ、澪」

さっきも聞いた筈なのに、また涙がぶわ、と溢れる。
久しぶりすぎて、私は止め方を忘れてしまったみたいで。

「正式には無理だけど、形にしたいんだ。澪を本当に私だけのにしたい。だから、これ、」

ポケットから黒い箱を一つ出して、私に見えるように、開く。
指輪、だった。

「すげえ高かったけど、澪のために頑張ったんだ。…………だからさ、澪。受け取ってくれるか?」

少しだけ不安げに、けれど、楽しそうに、律はそれを私に差し出した。
綺麗なリング。小さなダイヤが真ん中に光っていて、私の薬指にぴったり合いそうだった。

ああ、そうだ。
今、やっと理解した。
私を泣かせるのはいつだって律で、笑わせるのもいつだって、律だった。
嬉しい気持ちをくれるのも、楽しい気持ちをくれるのも、苦しい気持ちも、悲しい気持ちも、全部全部。


ずっと黙っている私を、律が見詰めているのがわかる。
律。不安そうな顔、するなよ。
だって私、今嬉しいんだぞ?

とびっきりの、私ができる最高の笑顔で言おう。

返事なんて、とっくの昔に、決まっている。







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1122いいふーふ!

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