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□あまじょっぱい
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涙ってなんでしょっぱいのかな?

って澪に聞いたら、

さあな。

って、それだけ言って、澪はまた歌詞ノートに向き直った。
……つまんねえの。


受験も終わって一息ついて、久々に澪の家にきて、いちゃいちゃしたかったのに。
来たら来たで澪は机に向かってて、私が話し掛けても生返事でさあ。
なんだか無性に寂しくなって、澪から視線を外す。外した先には、皺一つない綺麗な布団が敷いてあった。
布団に抱き着いて包まる。
ついでに枕も頭の下において、ばっちり寝る体勢になった。
まるで澪に包まれてるみたいで、私は本物の澪を睨みながら掛け布団をクンクンと嗅いだ。
澪の匂い。久々の澪のかおり。
私をいつも安心させてくれる匂い。
受験勉強のときはまともに会えなくて、抱き着いたり、キスしたり、えっちだってできなかった。
それで受験が終わってみればこうだ。
会いに来ても澪は机が恋人!みたいな感じでさ。
返事もあんましてくんなくて、私に背を向けてばっかりで。
もしかしたら澪は、受験勉強してる間に私の事好きじゃなくなったのかな。
だって、澪と私が付き合っているのはおかしい事だから。澪も冷静に考えていくうちに………。
そう思った途端、数年間も機能していなかった涙腺が緩み始めた。
ぶわ、と涙が溢れそうになる。
澪に限ってそんな事は…、……。
そんなの絶対って言えるか?いや、私は澪じゃないから、澪の考えてる事なんてわかんない。
……本当に、好きじゃなくなってたら?
ついに目の端から涙が零れた。頬をつたって、澪の枕に斑点が出来始める。
抑えていた声が少しだけ漏れて、今まで反応のなかった澪が、なぜかそれには反応した。
きぃ、と澪が椅子から立ち上がる音が聞こえて、体が強張った。

「…律。」
「、…っ…。」
「どうした?なんで泣いてるんだ。」

澪が私の横に座った。顔を覗き込んでくるから、思わず枕に顔を押さえ付けた。

「律、なあ。」
「うっせ…、あっち行けよ…。」

声が震えた。情けない。
澪は一向にそこから動こうとしない。

「………。」
「………。」
「律。」

名前を呼ばれて、一気に布団を引っぺがされた。
室温の低さで、今まで温かった肌が一気に冷たくなったのがわかる。

「な、なにす…っ!。」

そして澪が覆い被さって来た。澪の絹のように綺麗な髪が、私の頬に、顔の横に、肌に降り注ぐ。
澪の顔は、暗くて見えなかった。

「みお…?」

こんな状況でも、涙は止まらない。
まるで止める事を忘れてしまったように。

「…律。」
「っ…。」
「言ってくれなくちゃ、わからないだろ。」

有無を言わせない澪の声音。
手が押さえ付けられて、少しだけ骨が軋んだ。
いたい。腕も、……胸も。

「だっ…て、澪、構ってくんないっ…。」
「いっつもそんな事じゃ泣かないじゃないか。」
「、受験終わって…っ、やっと…遊べるってなった、のに…!」

枕がどんどん濡れてゆく。頬の横も湿ってくる。
澪の顔は依然として見えない。それが、私の不安を更に掻き立てる要因となる。
澪のバカ。アホ。

「みおにっ…きら、われたんじゃ…って…!」
「……………そんな事で泣いたのか。」
「そ、んな事って…っ!」

滅多に泣かない私が号泣してるっていうのに、澪はなぜかクスクスと笑っている。

「お前なに笑って」
「私は律が好きだよ。」

遮られた言葉に、私は目を見開いた。
その拍子に、涙がまたポロリと頬を伝った。
そして、澪の顔が見えて、やっぱりというかなんというか、澪は笑っていた。でもそれは、私の大好きな笑顔だった。

「泣くなよ。」
「だって、…っ!」

澪の綺麗な指先が、私の頬を撫でる。
すると、澪はなにを思ったのか、私に顔を近付けてきて、目尻をベロリと吟味するように舐めた。
そのあともペロペロ舐めて、私はこしょばゆいやら恥ずかしさで、身をよじった。

「なあ律。さっき、私になんで涙はしょっぱいのか、聞いたよな。」
「そ…だけど、」

私の頬を舐める事を一旦やめて、ククク、と笑いながら、そして私の服をまさぐりながら澪は、

「涙はしょっぱいけど、でも、お前の涙はすっごく甘いよ。」

だんだんと体を侵食してくる快感に、私は身を委ねた。



それはなんだか、すごく恋に似ている気がした。




 

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