2

□はやく、早く、速く
1ページ/1ページ




冬の朝というのは、本当に厄介だ。
目が覚めた瞬間襲う寒さは、私が布団から出ようとするのを阻止してくる。布団も布団であったかいから、すぐに眠くなって二度寝してしまう。
冬の朝は、苦手だ。




「…それ、ただの言い訳だ。」

私の話を静かに聞いていた澪は、眉間にしわをよせて苦々しく呟いた。
私は反論なんてできやしない。まさにその通りなのだから。

「寒いならさっさと布団から出て暖房をつければいい。」

私のベッドはシングルだけど、小さい私には一人で寝るには大きすぎる。
でも、澪が乗ればそれはちがう。途端に広いベッドは澪に占拠されてしまう。私と澪の体重を支えるベッドが、まるで悲鳴を上げるように軋んだ。

「布団から出れないなら、ベットの近くにエアコンのリモコンをおけばいい。」

私が頭で違う事を考えている間にも、澪は私にぶつぶつとお小言を続けている。

「ていうか…律は寒い寒い言ってるけど、それは律がパンツとTシャツだけで寝るからだろ。普通ならそんなに寒いはずがない。」

澪しゃんは本当に人の核心をつくのがうまいのね。
私がだんまりなのが気に食わないのか、澪はさらに機嫌を悪くした。


「なあ、律。…私は今日のデートが潰れたからって怒ってるわけじゃないんだ。」

は、
思わず喉から疑問が飛び出した。
ばっと口を右手で覆うと、さっきまで怒り顔だった澪が、突然悲しそうに微眉をひそめた。

「だって、律が起きてくれないって事はさ、私とのデートがそんなに大切じゃないって、事に、なるだろ?」

綺麗な瞳が涙で揺れて、それはゆっくりと決壊した。
私はなにも言えなかった。
ボロボロに傷付いてるのは澪なのに。気にしてんのは澪なのに。私を愛してくれてるのも澪なのに。

「だ、…から…、やなんだ…!待ってる時間ずっと、律に嫌われっ…たんじゃないかっ…てっ…いつも…!」

有り得ない。
有り得ない。
有り得ない有り得ない有り得ない。

「バカ澪!!」

私が澪を嫌う?
なにバカな事言ってんだ!

「りっ…、」
「そりゃ起きなかった私が断然悪いけど、今の言葉だけは聞き捨てならねぇ!」

澪の両手を思い切り掴んで、そのままベッドに押し倒す。
私の下で澪が息を飲むのが聞こえた。
その音に私は多少の罪悪感を覚え、荒い息を整えた。


「…私が起きなかったのは本当に悪いと思ってる。せっかくのデートなのに、それを台なしにした事も。」

ゆっくり、ゆっくりと。

「…でもそれは、私が朝と冬に弱いからで、」

優しく息を吐き出すように。

「私が澪を嫌いだからじゃない。」

澪は、私の下で震えたままだ。
私を見上げて、涙を流したままだ。

「……りつ、」

そのまま、抱き寄せられた。
首筋におでこをぐりぐり擦り寄せてきて、甘えモードだ、と一人で思う。

「ごめん、私、律が朝弱い事も、寒がりな事も知ってたのに、ひどい事言っちゃった。」
「…だーぁいじょぶだって。それは全面的に私が悪いから、さっきのお言葉、ぜぇんぶ有り難く頂戴させて頂きやす。」

だから泣き止めよぅ。
右手で澪の後頭部を撫でながら、私は笑みを零す。

「ぅん、」
「よぉし。」

ごしごし。
袖の端っこで目元を拭けば元通り。いつもの澪しゃん大復活だ。

「じゃあ澪が復活したとこで、」
「?」
「もう遅いけど、デート行こうか!」







(いっそ同棲したら、早いのに)








――――――――――――
早くルームシェアしなよ。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ