Short×krk1
□かがみよかがみ
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「あっリンゴ売りさん…!来て下さったんですね、ありがとうございます」
白雪姫が嬉しそうに笑って迎えると、すかさず勘違いすんなと冷たい遮りが入りました。
「別にお前らと仲良く茶なんか飲む気はないからな。ただ、俺のリンゴを食べるのを見届けに来ただけだ」
……そうです。
実はこのリンゴ売り、変装したお城の悪い魔法使いだったのです。
白雪姫を苦しめる為に与えた毒リンゴ。
それを食べもせず暢気にお茶会に招待してきた白雪姫に、今度こそ確実に食べさせる為に彼はやって来たのです。
決してお誘いが嬉しかったとか…そんな訳ではないのです。
ですが。
「そんなに、リンゴの事を…!」
「農家さんというのは素晴らしいですね…」
「なんか、うるっとしちゃったっス…!」
事情を知らない白雪姫達の心には、リンゴ売りの言葉に対する感動が渦巻きました。
尋常でないその様子に彼は戸惑います。
「お、おい何だ、何のはなし…」
ポン。
肩を叩かれそちらを振り向くと、
「…どうやら、お前を誤解していたのだよ」
恥ずかしそうに伏し目で言われたリンゴ売りの背をゾワリと何かが駆け抜けました。
意味不明な展開に固まっている彼を「まーまーまー!食べながら話そうぜ!」と無遠慮な大きい手が椅子に押し付け、これで席にはリンゴ売り、小人達、王子、そして白雪姫が揃います。
テーブルには熱い紅茶が湯気をたて、色とりどりのジャムに焼き菓子、そして大きなアップルパイ。
「では、皆で楽しいお茶会を始めま…」
「待て!!俺はお茶会に来たんじゃないと言ってるだろ!」
「……、そう言わずに。この家の料理はとても美味いんだ」
頑なな拒否にしょんぼりする白雪姫達に代わって、王子がリンゴ売りを宥めに掛かります。
まぁまぁ取り敢えず食べてみて、と苦笑を浮かべる相手を彼は怪訝な瞳で見返しました。
「…さっきから思ってたがお前誰だ」
「隣の国の王子だよ。実は森に迷ってかくかくしかじか…」
「!、な」
隣国の王子だと…!
大体の場合、姫に掛けた悪い魔法や呪いを解くのは王子と相場が決まっています。
その存在は衝撃的でした。
既に出会ってしまったとなると、白雪姫だけでなく王子も同時に片付けなければリンゴ売りの計画は達成されません。
彼は考えました。
「……そこまで言うなら、やっぱり食べてみることにする」
こいつらのノリだと、恐らく俺の参加に喜んで全員でいただきまーすパクッの流れ…!
そこを食べた振りで乗り切れば…ふはっふははっ…
そんなリンゴ売りの頭の中など喜ぶ白雪姫達は誰も知りません。
そして場は予想通り流れるのでした。
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