Short×krk1

□かがみよかがみ
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「ん?こんな森の奥に人が居るのか…?」


旅の途中、従者達とはぐれ白雪姫達の暮らす森を宛もなく彷徨っていた王子様は、前方の草むらに屈む人影を見付け馬を止めました。
軽やかな動作で地面に降りて人影に近付く王子。
さらりと揺れる長めの前髪、右目の下の泣き黒子がその優美さを引き立てます。



「こんにちは。君はここで何をしているのかな?」

「ん〜花を摘んでるんだよー」

「へぇ、どうしてこんな所で?」

「えっとねーお茶会?に飾るんだって。美味しいおやついっぱい食べるんだー」

「お茶会…」



この深い森の奥で?

ですが、森に迷い込み昨日から何も口にしていない王子はその言葉に違和感よりも激しい空腹を覚えました。



「……あんたも来る?」

「え」

「なんか、お腹空いてるぽいし、かわいそーだし」



王子は一瞬躊躇しましたが、うちのご飯はおいしーよ?と首を傾げて言われる言葉にくすりと笑ってしまい、素直に彼についていくことにしたのでした。




泉の畔のトンネル、茂みの影に隠れた小道、小川にひっそりと架かる橋。

知らなければ到底見付けられない秘密の道を2人と1頭がとことこ歩いていくと、やがて大きな木の下に立派な家が見えてきました。



「あれがオレ達んちだよー」

「本当にここに人が住んでるんだな…」



深い深い森の奥。

この世の全てから隠されたような秘密の家に、王子は驚いて瞬きました。
家の中からはさわさわと何人もの人が動く気配がします。



「ただいま〜いっぱい花摘んできたよー」



王子が近くの適当な木に馬を繋いでいると、その声に家の中の誰かが顔を出しました。



「あっお帰りなさーい。わぁ、本当にいっぱいですね!いい香り」

「うんオレ頑張ったよ、えらい?いっぱいおやつ食べていー?」



背伸びをしてえらいえらいと頭を撫でるその手は、抜けるように白く雪のよう。
たくさん食べて下さい、と微笑む唇は血のように赤く艶めき…。
その娘の美しさに、ただぼうっと見入ってしまった王子の視線に気付いた白雪姫は、紫の小人にあれは誰かと尋ねました。



「んー…拾ったひと。お腹空いてんだって、かわいそーかなって」

「あ…っ、す、すみません、実は道に迷ってしまって…」



自分の紹介をしてくれているらしい雰囲気に我に返った王子は、今までの経緯を白雪姫に話しました。



「まぁ…それは大変でしたね。どうぞ中へ、今日はちょうどお茶会なんです。あ、お馬さんには…」



テキパキ馬にも水とエサを与えてやり、白雪姫は王子を家の中へ案内しました。

招き入れられた室内を見て感嘆の溜め息を漏らした彼を、白雪姫は他の小人達に紹介します。



「お客様が1人増えました!隣の国の王子様だそうです」

「王子だと」

「王子様…」

「まぁぽいスけど」

「ふぅん…」



ざわざわと波立つ空気に怯まず、王子はにっこり笑って素晴らしい家だな、と小人達を誉め称えました。
外観も家と言うよりは屋敷のようにしっかりとしていたし、中に入れば予想以上に広く、格調高い調度品で纏められた空間は隅々まで洗練されています。

そんな王子の心からの賛辞に最初は警戒していた小人達も喜び、彼らはすぐに打ち解けたのでした。

座れ座れと促された王子がお茶会前に軽い食事を頂きながら小人達と話していると、外からガタガタと近付く物音が聞こえてきました。



「おう、ウロウロしてたから連れてきたぜ」

「遠慮しないで入れよー」

「……」



水を汲みに行っていた青と灰の小人が連れて帰ってきたのは、果てしなく不機嫌な顔をしたリンゴ売りでした。




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