Short×krk1

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そうは言っても、姿の見えない妖精を捕まえるのは中々難しかった。


そもそもいつも、紫原が気付くのはいつの間にか変化があった後なのだ。

彼は取り敢えず、虫取網を持ってきてみたり、ネズミ捕りを置いてみたり、それで周囲から浮いたり黄瀬を笑い死にさせかけたりして数日を過ごしたが、捕獲には至らなかった。
これはと思った早朝待ち伏せ作戦も、教室到着時に既に花が生けられているという完敗で不発に終わる。

追いかけても待ち伏せしても、その手をするりと抜けてゆく見えない影。

教室はそんな妖精のおかげで相変わらず過ごしやすい。



「あー…!」



今日は自分がどこかに忘れてきた筈のシューズ入れが、机にそっと置かれていた。
向こうからの接触を逃したことにガックリしつつも、こういう個別の困ったことにも対応しているらしい手広さに感心する。

試しにわざと大きな声で「こまったこまったお菓子食べたいいっぱい食べたい死ぬほど食べたーい」と言ってみた。

会話中にいきなりそんな事を言われた黄瀬が「えぇぇ何スかいきなりぃ…!」とびっくりしただけだった。



……何でも聞いてくれる訳ではないらしい。





日に日に高まる好奇心。

誰も知らない誰かとのおいかけっこは続く。





そして、紫原が今日はどんな花だろうと楽しみにさえするようになった頃。


うっかり部室のお菓子を食べ尽くした紫原は、練習を抜け出して教室に予備のお菓子が無かったか探しに戻った。
もう部活も終わりに近い時間、校舎に人の気配はない。
ぐーぐー鳴る腹を撫でながら辿り着いた自分のクラスの扉を勢いよく開ける、と。



「、えっ…!」



窓際に立っていた誰かが酷く驚いて振り返った。



「あ…、なん、こっ」

「え?軟骨?」


ググゥ〜〜〜


「「・・・・・・」」


「……おなか、すいてるんですか…?」

「うん」



こっくりと頷いた紫原に、少し笑った彼女は鞄から小さな袋をいくつか取り出した。



「余り物だけど、もし良かったらどうぞ」



中身はクッキーだった。
誰かにあげる予定だったのか、綺麗にラッピングされたそれを遠慮なく受け取ってガサガサと早速一つ口に運ぶ。



「……!おお…!?」



気に入った様子で、目を輝かせて夢中でぱくぱく食べる紫原を見た彼女は安心したように息を吐いて「じゃあ私は帰りますね」と鞄を持ち上げた。



「これ、おいしーよ。ありがとー」



クッキーを腹に納めることに忙しい紫原は、ろくに顔も上げずにもぐもぐ口を動かしている。
良かった、そう微笑んで脇をすり抜けていった影がすれ違い様に


「ふふ、死ぬほどいっぱいは無理だったけど」


と小さく呟いたことに、その意味に、紫原は扉が閉まった後で気付いたのだった。







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