El Dorado!1

□流して流されて
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「黄瀬は“可”だそうだ」


神妙な顔で携帯画面を覗いていた木吉の言葉に、集まった面々は首を傾げた。
――“可”?ってなんだろう。
恐る恐る本人が尋ねる。



「オッケー、ってことっスよね?」

「……正確には“ギリギリ”オッケーかな」

「ギ、ギリギリ…!」



苦笑する氷室の補足に詰まった黄瀬は、その画面を見せて貰う。
そこに表示される木吉に届いたリコのメールによると…

【評定:可
 大変的外れな方向性です。
 庭・エントランスの水浸しは困ります、今後の為にも人の迷惑を考える力をつけましょう。
 ただ、熱意と愛情はある意味イタいほど伝わったので期待を込めて“可”とします】

との事だった。
その評価に、完璧を信じていた黄瀬は崩れ落ちがっくりと膝をつく。


「そ、そんな…何がダメだったんスか先輩…!」


うっうっと続く呻き声に、青峰は喉元まで出掛かった『お前何してきたの…?』という問いを飲み込んで肩をそっと叩いてやった。

まぁなんつーか…ドンマイ。



「…なるほど、そういう判断方法をとるのか」



黄瀬の事など端から眼中にない緑間が納得顔で言った台詞に、つい黄瀬を見ていた黒子と紫原が顔を上げる。



「なるほどって、どういう事ですか?」

「ふん…、つまり我々はテストされているという事なのだよ」

「ミドチンの説明っていつも意味分かんないよねー」

「お前は…少し位考えたらどうなのだよ!“可”という評価は大学の成績と同じだろう!」



大学の成績は上から優・良・可・不可の四段階で科目毎につけられる。
可以上なら単位取得…つまり合格となり、不可なら不合格また来年頑張ってね〜という訳である。
その年次に指定数の単位を取れていれば進級・卒業、そして最終的には優の総獲得数等で総合成績が判断され首席や優秀卒業生が決まる。



「各個人で行って、ミョウジ先輩が戻っても大丈夫かなどどう評価するのかと思っていたが…これは、一人一人成績を出してその総合結果から最終的な判断をするぞ、いう意味だと俺は思うのだよ」

「……それって」



緑間の言葉に、しーんと静寂が訪れる。

彼の言う通りだとすると、それぞれの評価が合わさって寮全体の評価になるという事であって、つまりそれは自分だけが良い結果を出しても駄目だということであって、だが既に“可”を出してしまった黄瀬がここに居るのであって……。

静かに集まった視線にサーッと青ざめる黄瀬。



「むー…黄瀬ちんー…」

「どどどどうしようヤバいっスか!?俺ヤバいっスかヤバいっスよね“可”って!?」


その涙混じりの声に、先輩達が見かねてフォローを入れる。


「いや、まぁ、ホラまだ一人目だし…一応合格なんだから大丈夫だよ多分!機械的に結果だけ見るんじゃないだろうし…」

「あぁ、リコも熱意と愛情は認めるって言ってるしな。結局最後に試合を決めるのはそういう気合いだったりバスケを好きな気持ちだったりするだろ?黄瀬なら勝てるさ!」



あぁはい…あの氷室さんはともかく、木吉さんはもういいです…。

そんな心境の黄瀬に思いがけない追加フォローが掛かる。



「気にするな黄瀬。お前は十分役割を果たしたのだよ」

「え、み、緑間っち…!?」



まさかの方向から向けられた優しさに、感動で涙が出そうである。
ありがとうありがとうありがとーう!
尻尾を振るように喜んで飛び付こうとしたその笑顔は、しかし次の一言であっさり吹き飛ぶ。



「お前が足を引っ張るのは最初から分かりきっていたし、偵察の気で出したのだから結果は期待していないのだよ。他でカバーすれば問題ない」

「!!」



眼鏡を押し上げながら平然と放たれた本音に、浮かせてからべしゃんと叩き落とされた黄瀬は隅っこでがっくりと膝を抱えた。
どうも暫く戻ってきそうにないが、そんな彼を置いて場は進む。
構うのは食べる?とポッキーでその頬をつつく紫原くらいである。



「……次は、俺が行くのだよ」



静かな緑間の声に驚きが走る。

もう少し様子を見て慎重に動いた方がいいんじゃ…。
そんな面々の気持ちを読んだように、彼は溜め息を吐いて言った。



「何も今から行こうと言うんじゃない。俺は何の策もなく飛び込むのは性に合わん…情報を集め、練りに練ってから行くのだよ、安心しろ」



少し心当たりもあるしな…ふふん、等と勿体ぶった笑みを残して自室に戻っていく緑間。


その背中に全員が、心当たりって高尾だろうな…と思ったが誰も口には出さずそっと微笑んで解散していく。




この寮は、意外なところで優しかった。






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