El Dorado!1
□言わぬが花
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「黄瀬君…あの、ごめんなさい叩いたりして…」
数分後。
床をすっかり綺麗に拭いた黄瀬にナマエは謝った。
「謝らないで下さいよ、俺が悪いんスから!今までいっぱい迷惑掛けたから、叱って貰えて良かったっス」
「黄瀬君…」
慣れないからといって、あんな風に怒ってしまった自分にこんなに素直な態度を取る黄瀬に、ナマエは感動した。
――なんと良い子なんだろう。
「てゆうか、寧ろ物足りないぐらいってかもっとドンドン叱って欲しいってゆうか…」
「黄瀬君…?」
そう言って頬を染めてソワソワする黄瀬に一瞬固まる一同。
だがそんな空気も意に介さず、『じゃあ早く寮に戻ってきて、これからは遠慮なく叱って下さいっスよー!』などと叫びながら顔だけは爽やかに黄色い嵐は去っていった。
ナマエや皆の心に淡い疑惑と戸惑いを残して。
「ねぇ…黄瀬ってもしかしてエ…」
「小金井君!」
「つーかダッ…」
「火神君!」
なんか、言葉にしちゃ余計だめな気がする…!
そんな認識のもと、真実を口にしそうになった2人を素早く止めるリコ。
ナマエと水戸部がおろおろとそんな3人を見守っていると、チャイム無しに寮の扉が開いて寮生の帰宅を知らせた。
「お、ほんまにミョウジおるやんかー」
「伊月さんが言ってたのマジかよ…」
「判り易すぎてイラつくな」
聞こえた声に一同が視線を向ければ、入ってきたのはこの寮で暮らす今吉・高尾・花宮のPG3人組である。
「PGでちょっと集まって練習しとってんけど伊月に木吉から電話きてなぁ。多分うちに居てるんちゃうかって伊月の予想は当たりやった訳か…いらっしゃい、ミョウジ」
「ふはっ、どうせ出てきたはいいけどどうしよう…とかピーピー言ってるとこその辺の連中に拾われたんだろ。相変わらずナマエチャンは行動が単純なお子ちゃまだなぁオイ」
「は、花宮君、今吉先輩…!」
口を開いた途端自分をネチネチ口撃してきた花宮と、ニヤァと嫌な笑顔で手を振る今吉にナマエは凍りついた。
優しい面々にすっかり忘れていたが、この寮には2人が居たのである。
「んー…何でワシより先に花宮呼ぶんかなぁ?声掛けたん花宮のが後やのにおかしいなぁ?なぁミョウジ」
「ひたっひたひ!ふみまへんふみまひぇん…!」
ぎゅうぎゅうとナマエの頬っぺたを楽しそうにつねる今吉に、リコ達は相変わらず…と溜め息を吐く。
去年同じ寮で散々見慣れた光景に口を挟む者は居ない。
「ちょ、おいおい何してんすか!」
だがこの光景に慣れずボーッとしていた一年生組の内、先に我に返った高尾が止めに掛かる。
「大丈夫っすかナマエサン!」
「た、高尾君…ありがとうございます、大丈夫です」
あれで今吉先輩も一応加減はしてくれますから、と頬を撫でながら微笑むナマエに胸がきゅんとする。
前から思ってたけど、この人ホンット健気だよなぁ…!
頭をヨシヨシしたい衝動を堪えながら高尾は言う。
「それよりナマエサン、事情は聞きましたよ」
緑間に会いにちょこちょこナマエの寮を訪れていた高尾はわがまま放題の彼らに振り回され忙しそうな彼女を見ていた。
緑間絡みの為何だか躾不足のような罪悪感を感じ、手伝おうと声を掛けてもいつも平気だと笑っては寧ろ高尾を気遣ってくれる優しい先輩。
そのナマエが遂に耐えきれず寮を出たというではないか。
高尾的に一大事である。
「うちの真ちゃんが…マジすんません…!」
「えっそんな、高尾君が謝ることじゃ…」
「いや!見て分かってたのに、もっとしっかりあいつらに言わなかった俺もダメっつーか…」
自責の念と使命感に燃える高尾はナマエの手を取る。
「とにかく!真ちゃん達がきっちり反省するようにオレも手伝いますんで」
「え、は、はぁ…ありがとうございます?」
・・・・・・・・・
「……で、お前はいつまで握ってん、だ!」
「いってぇ!」
手刀をくらった高尾が涙目を向けるが放った花宮は気にも留めない。
手を離したならそれでよろしい。
「それでお前どうする気なワケ?ずっとここに居るのかよ」
「う、それは…」
「あー…あのね、それについては私が鉄平に…」
かくかくしかじか。
リコによる全員反省の色を見せに来るまでうちで預かるわよ宣言と、早速来た黄瀬のあれこれをリコや小金井に説明されふんふんと頷く3人。
「ふーんなるほどなぁ。ほな暫くは此処に居てるんか…楽しいなぁ、ミョウジ」
「…そ、そうですね」
「居る間ずっとピーピー言う気じゃないだろうなァ…しっかり働けよ雑用」
「…はい、あの、居候としてそれなりに頑張ろうとは…」
「えっコレ逆に状況悪くなってねー!?」
青ざめるナマエと楽しそうにつつく先輩性悪PG達を見て、俺は味方に回ろうと決意を新たにする高尾。
その肩をポン、と叩かれ右を見ればリコがにっこりと「期待してるわよ高尾君」
左を見れば小金井がキラーンと「緑間攻略は君に掛かってる!」
そして前を見れば頑張ってと頷く水戸部。
「あーはいはいオッケーオッケー…んじゃ、Mでダサい黄瀬に続いて他のもさっさと反省させちまおーぜ!」
言っちゃった高尾に、あーあと呟く火神の声は聞こえなかった。
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