El Dorado!1

□いま、黄瀬が行きます 後
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「…なぁどうする?ミョウジ目ぇ死んできてるけど…止める?」

「そ、そうねどうしよう…私もまさかこんな方向で来るとは…」



隠れて様子を窺っていたリコ達も、ナマエと同じく理解不能な展開に戸惑っていた。
止めるべきかもう少し様子を見るべきか…。



「取り敢えず黄瀬がずっとひっついてんのは何かムカつくんすけど」


火神の言葉に、水戸部も濡れ続けるとナマエが風邪を引くかも…と心配そうに頷く。


「そうよね…っていうかあの雨なに?どうやってんのかしら」

「あぁそりゃあれだよ、ほらあそこ」



凝ってるよねーと言う小金井の指差す方を見ると、庭の芝生に2、3本のホースがこの玄関目掛けて固定され勢い良くシャワーを降らせているのを発見。

なるほど。

方向性はともかく、取り敢えず黄瀬の本気度は伝わる演出への熱意である。



――で、その黄瀬はと言うと。



(センパイ、小さい肩だな…ってゆうかコレ…!)


未だ抱き続けているナマエが少し身動ぎしたことで、急にこの状況を意識し出していた。

綺麗な髪を伝う雫、濡れて肌に張り付くシャツ、その薄いシャツの向こうの柔らかな体温。



(ななななんて格好してるんスか…!センパイのばか!無防備!)

※黄瀬君のせいです。


とにかくどうにもこうにもこの柔らかさにこれ以上触れているとあらゆる意味で俺はやってしまうと判断した黄瀬は少し体を離す。



「セ、センパイあの…っ」

「…?」



顔を上げたナマエと目が合う。
戸惑うように少し開かれた唇が濡れている。

(うわセンパイかわいいセンパイかわいいセンパイかわいいぃ…!なんか、もういいっス…!)



「俺…っ実は前からセンパイのことが…!」

パシュン!


本来の目的を忘れ、ナマエに高まる想いをぶつけようとした黄瀬の耳に不思議な音が聞こえた。
反射的に振り返ると水の勢いに耐えきれず外れたのか暴れるホースが背後から飛んでくるのが目に入り「うぉ危ねっス!」と、つい咄嗟に避け…たのだがそれはつまり…。


ビシャアアアァァァァァ!!


暴れホースは見事ナマエの頭に命中し、暴れながら彼女に大量の水を浴びせた後ビシャビシャと庭に戻っていった。



「…う、うわセンパ…」

「……」



今やナマエは滝で修行でもしたのかという水分量である。
どうしようとただあわあわ青くなる黄瀬を前にして、彼女は思った。

これは、怒るべきところだ…!と。

自分はともかく、寮の中まで結構な水浸しである。
頭の中で田舎のおばあちゃんの声が響いている。



“人様にご迷惑を掛けちゃいかんよ…かんよ…んよ…(エコー)”



くるりと黄瀬に背を向けて、ナマエはまっすぐ洗面所へ向かった。
そのスタスタと言うよりはビチャビチャという足取りに黄瀬は勿論、見守る誰もが何も言えずポカンとする中、山のようなタオルと雑巾を抱えた彼女はすぐに戻り…



「セ、センパ…ぶぐぅっ!」


それを思いっっきり黄瀬に投げつけた。


「「「ええぇぇぇぇー!!」」」



振りかぶるナマエの顔面へのミラクルヒットにより倒れた黄瀬を見てリコ達が飛び出る。



「ちょ、ナマエー!待、ちょっとぉお!」

「うわあああミョウジ落ち着けえぇぇ!」

「腹立つのは分かるけど待てえぇぇ!ですぅぅ!」



口々に制止されても水戸部に抱き止められてもそれを振り払いナマエは黄瀬に近付く。
その頭の中ではリコや日向のアドバイスがぐるぐると反響していた。



“自分でやらせなさい!”


“そんなんタオルだけ投げ付けときゃいーのよ!”


“怒り方?後輩なんてダアホっつってどついとけ”



そして彼女は呆然と尻餅をつく彼に向かって言い放った。




「お、お片付けしなさい!黄瀬君の…っダアホー!!!」




止めに「えいっ」とばかりに頬をぺちんと叩かれた黄瀬はぽかんと呆けた後。


「………ハイ…」


物凄くうっとりした笑顔で頬を染めて頷いた。



……そこでときめくのかよ!!



向こう側へ行ってしまった黄瀬に、みんなの心の声が響く。







星のきれいな、夜のことだった。









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