El Dorado!1

□いま、黄瀬が行きます 前
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「……と、いう訳で全員で謝りアタックは却下された!リコってすげーよな、お見通しだもんな!」


携帯を見せた木吉があははとリコを褒めるのを聞いて、氷室は噴き出した。



「ぶふっ、褒めてる場合じゃないのに…っ!」

「ん?だってリコはすげーだろ?」

「あはははそうだな凄いなあははは!」


「……いやいやいや!笑ってる場合じゃねぇだろがおい!」


青峰の声に我に返った緑間も賛同する。


「そ、そうなのだよ、次の手を考えなくては。全員で謝りまくれば何とかなるという先程の案は駄目になってしまったのだから」

「うーん?だから個別ならいいんだろ?1on1って燃えるよな…っ勝とうぜ!」



笑顔でグッと拳を突き出した木吉に場に静寂が訪れる。

なにこの人…もしかしてアホ?

あはははバスケじゃないんだから等という氷室の笑い声だけが虚しく響く。



「……俺が、行くっス」



上級生は頼りにならないと早々見切りをつけた黄瀬が一番手を名乗り出た。
おぉ…とどよめきが起こる。



「やる気だな黄瀬」

「黄瀬ちん頑張れー」

「咬ませ犬としては適任なのだよ」

「そうですね、様子見には黄瀬君程度がいいと思います」


「…えっ何か緑間っちと黒子っちおかしくなかったっスか!?」



ううん全然。

全員に首を振られた黄瀬は悟った。

…これが、現代社会なんスね…!



「俺…負けないっス!待っててナマエセンパイ!」

「じゃあリコにまずは黄瀬が行きますって予約しとくからなー」







*****



「……来るわ」


場の全員を見渡してリコの目が光る。
それに応えるように火神・水戸部・小金井がゴクリと息を飲み頷いた。



「日向君は自分の寮に帰っちゃったし、私達もあくまで見守るしか出来ないけど…頑張ってねナマエ!」

「はい…っありがとう大丈夫です!」



しっかりお話出来るように頑張りますとナマエが拳を握り締めていると寮のブザーが鳴る。
来客を報せるその音に一同は立ち上がり、各自持ち場に身を隠したのだった。



ガチャリ


「はい、いらっしゃ…い…?」

ザアァァァァァァ…!

ナマエがドアを開けると外はどしゃ降りの大雨だった。
あれ?今日はカンカン晴れだった筈じゃ…あれ?
驚きに固まっていると、俯いて立っていたずぶ濡れの黄瀬が口を開く。



「……ナマエセンパイ…」

「あっはい黄瀬く、ひ!」


ガッシリ肩を掴まれた。


「どうしてなんスか…っ嘘だって言って…!」



泣きそうな声と悲痛な面持ちでナマエに必死に縋る黄瀬。
ナマエはその勢いに着いていく事が出来ずされるがままである。



「ど、どうしたんですか黄瀬君取り敢えず落ち着い…!」

「嫌だ!落ち着いてなんかいられないっスよ…センパイ、俺を捨てるんスか…!?」

「捨てる!?」

「そんなの嫌だ絶対離れない!…っナマエ…っ」

「!!」



黄瀬にグイッと引き寄せられ、気付くとナマエは抱き締められていた。

ザアァァァァァァ…!

玄関から出ることになった彼女にも雨は容赦なく降りかかる。



……何ですかこれ…?



しかも落ち着いてよく見ると雨が降っているのはこの玄関先だけで、黄瀬の向こうは夜空に綺麗な星まで見える晴れである。
と、雨について考える隙も与えずどこからか…というか黄瀬の後ろのラジカセからラブソングが流れてきた。



……だから、何ですかこれ…?



理解不能な状況に恐ろしく頭が冷えていくナマエは無の境地へ至りつつあった。

一方、黄瀬は特に抵抗もなく抱き締められるナマエ(単に意味不明で動けないだけ)に、心の中でガッツポーズしていた。


これは、間違いなく決まったっス…!


雨の夜ずぶ濡れで現れる男、離れないでと抱き締められると戸惑いながらも受け入れる女、そしてクライマックスのラブソングが流れて次週へ続く…。

完璧っス!
女の子はこうゆうムード満点のドラマみたいな展開に弱い筈っス!



生まれてから今日まで何もしなくても自然にモテてきた黄瀬は、自分からモテよう・口説こうとするには悲劇的なほどセンスがなかった。






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