El Dorado!1

□さよならされました
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「おい、ナマエどこ行った?遅くねぇ?」


ロードワークから帰ると、いつもは寮で夕飯を温めている筈の時間に担当トレーナーの姿が見当たらない。
そんな疑問を口にした青峰の言葉に、食堂に集まっていた面々が振り向いた。


「峰ちん…ばか」

「あぁ!?」

「怒らないであげて下さい青峰君」


不機嫌オーラを出し捲りソファーに三角座りする紫原。
それをしばこうとする青峰を、黒子が止める。
取り敢えずこれを見て下さい、と渡された便箋には意味不明な文と探していたトレーナーの名前が書かれていた。


「……何だこれ」

「ふぅ…見れば分かるのだよ」

「どう見ても置き手紙ですね」

「つまりナマエセンパイが……出てっちゃったみたいなんスよ…!」


どうしよう青峰っち!そう言って飛び付いてきた黄瀬を振り払うのも忘れ、青峰はたっぷり固まった後叫んだ。


「はぁぁぁぁぁぁ!?」









*****




「さて…どうしようかな?」


集まる1年生を見渡して、氷室は苦笑した。
顔を見る限り、帰ってきて欲しいという気持ちは皆一緒のようである。
まぁ、それぞれが考えていることは違いそうだが…。


「…峰ちんのせいだから」

「あ?」

「峰ちんが謝りに行けばいいと思う」

「だからさっきから何で俺なんだよ!」

「はやくナマエ帰ってきてほしい…」


ピンポイントで責められた青峰が吠えるが、紫原はしおしおと項垂れるだけだった。
この事態を自分一人のせいにされるのは流石に面白くない。
説明を求めるその目線に、黄瀬が応えた。


「さっきまで俺ら、一足先に話し合ってたんスよ。何でナマエセンパイが出てっちゃったのか」

「おう。で?」

「青峰っちのせいだって結論が出たっス!」

「だ か ら!それが何でかって聞いてんだろが!ボケ!」


がるがるとヒートアップする青峰を黒子がまたどうどうと抑え、黄瀬の説明になっていない説明を緑間が継ぐ。


「青峰、お前は昨日またミョウジ先輩からおやつを奪って食べたのだよ」

「あん?…おぉ、あれか」

「…あれ、ナマエ楽しみにしてた。限定味貰ったから俺にも一口あげるねって…うー…」

「その貴重な限定味が食べられた事にショックを受けて出ていったのでは、というのが我々の見解なのだよ」


えぇぇそんな事でかよ…!

簡単過ぎるだろうと思うが…彼女なら有り得るのだろうか、とも思う。
本当に自分のせいな予感に青峰の頬を冷や汗が流れた。
そこに黙って聞いていた氷室がそうかな?と口を開く。


「君たちはまだ知らないかもしれないが、ナマエは真面目で凄く責任感の強い子だよ。たった一つの出来事で仕事を放り出すとは、とても思えないな」

氷室の言葉に黒子も頷く。

「僕もそう思います。ミョウジ先輩は…簡単に誰かや何かを嫌がったり逃げたり出来る人じゃないです」

「…じゃあ、何でスか?」

「昨日の出来事で他に思い当たる節は無いのだよ」


1年生達の全く分からないというその顔に、氷室は溜め息を吐いた。


「考えないといけないのは、昨日だけじゃないんじゃないか?」


静かに氷室の声が響く。

皆、これまで自分がナマエに要求してきた我儘を考えてごらん。

……いくつか思い浮かんだか?

ん、じゃあそれを叶える時間を人数分で×5して毎日の自由時間に当てはめてみろ。


「…よ、夜になったっス…てゆーか寝る時間に食い込んじゃった…」

「お菓子作んのって、時間掛かるしー…」

「そうだな。じゃあそこにナマエの寮での仕事に掛かる時間を大体予想して足して、手伝いをしてる奴はその分を引いてみようか」

「……、殆ど引けないのだよ」

「僕のお手伝いも微々たるものでした」

「何だかんだ言って掃除洗濯とかも結構頼ってたしよ…」


はぁ…と項垂れる一同。
先程までとは違って、どうやら各個人も自分の反省すべき部分に思い当たったらしい。


「俺もだけど、俺だけって訳じゃねぇな」

「…確かに、俺達も非協力的過ぎたのだよ」

「青峰っちのせいだけじゃないっス…」

「ごめんね峰ちん…、これあげる」


そっと差し出されたスナックは“海苔マヨカスタード味”

……いらない。

青峰がそれキモいと首を振っているとガチャリと扉が開き木吉が顔を出した。


「まーお前らだけじゃないぞー!俺も氷室も配慮が足りなかったって、反省してんだ」

「そうだね、俺達もナマエの“大丈夫”に甘えすぎてたからね」

「だから、俺ら皆で謝って、皆で迎えにいこうぜ」


な?そう言って笑う木吉に、場の空気が少し軽くなる。


「……で、まぁ問題は居場所なんだけどな…」

「あれ?分からなかったのか?」


氷室が意外そうに木吉を見るのに釣られて、全員の視線が集まる。


「いや、何人か当たったらすぐ分かった。ただな…強力な護衛がついちまったみたいで…」


はは…と頭をかく木吉に再び座に不安が満ちる。


「ま、まぁ、皆で頑張れば大丈夫だって!ナマエって結局優しいしな!」


はははと笑う先輩を見て、……黒子は木吉の笑顔でこんなに不安になるのは初めてだな、と思った。






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