小説
□若葉の頃
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いつ何時見ても女の陰が絶えないと噂された男が居た
それは酷く好色で女泣かせで、無愛想で粗野で喧嘩っ早いと最悪の評判
孕ませた相手は数知れずと囁かれた程
田舎外れの道場に食客として居座る身ながらと、その周辺では有名な話だった
つい最近までは
「おい、トシ〜」
夕暮れ時、稽古後の道場内に人の好い、間延びした声が響く
「近藤さん、懲りないな?あんたも」
呼ばれた男は手拭いで汗を拭き取りながら、好対照な低く抑揚の無い声でやれやれと振り向いた
「お前みたいに歩くだけで女が寄ってくるんなら良いんだけどな〜」
歩く傍から避けられるんだよ〜アッハッハッと自慢にならない話を豪快に笑いながら一通り済ませて、懐から紙の束を取り出す
男がギョッと目を見開くのも構わず手を取り、それを握らせた
「ナイスなフォローヨロピク」
ピースサインで死語を連発しながら、しかし不思議と憎めない表情で男の肩をポンと叩いた
あちゃ〜と頭に手をやりながらも渡された紙を胸元にしまい込む
「しかしトシも真面目になったって、近所では噂だぞ?」
「は?」
近藤と呼ばれる男は腕を組みながら全く他意の無い様子で話題を切り替えた