小説

□こころ
1ページ/10ページ

月明かりを暗い群雲が遮り隙間からこぼれる光をすでに寝静まった地上の民家に降り注いでいた

一般市民とは程遠い凄惨な日常に明けくれながらそれでも一握りの安息を求めて今夜も江戸の重鎮真選組副長、土方十四郎は戸窓からもれる僅かな明るみを浴びていた

「…ねむらねぇんですかい?…」

声の方へ逆光を浴びた顔を薄暗い部屋の中へと戻す
「お前は先に寝てろ…」
肩から落ちる着流しを気にもとめずに言うと、揉みくちゃになった布団の上で火照った身体を気だるい様子で土方に向けその言葉に反応した
真選組一番隊隊長の沖田総悟である
組内でも屈指の剣の腕と同時に、その男の身でありながら類い希な美貌と謳われる肢体を闇の中で青白く浮かび上がらせている
年齢に不似合いな憂いを帯びた大きな両の瞳が土方を捕らえていた
「…あれだけヤってまだ起きていられるんですねィ…いい加減枯れて死なねぇかな…」
「…お前は俺を殺す為に抱かれてるのかよ?」
「風邪引きやすぜィ?…」
相変わらずな沖田の言いぶりに苦笑しながらふとこの子供と初めて言葉を交わした時のことを思い出した
思えばたいして変わってないな、身体は成長したが今もあの時もこいつはガキのままだ
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ