NOVEL

□歯を食いしばれ
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※16ザン×22スク
執事パロ












坊っちゃん、と。
ただそれだけ。

彼は擦れた声で初めてそう呼んだ。









世界有数の大富豪の家に生まれた俺は、小さな頃から続く金目当ての誘拐やら遺産相続目当ての殺人未遂やらに、そろそろ慣れ始めていた。
どんなにいい顔をしていても、しょせん金。誰も信じてはいけない。誰も。そう教えられてきた。やがて俺は屋敷の者でさえも信じなくなっていた。長年仕えてる執事も、父も、母も。

そんなときあいつはやってきた。8才の頃だ。
ずらりと並ぶ執事の中に、やけに小さくて細い少年が立っていた。(といっても俺よりは少なくとも五つは上の様子だったが)
頭を下げた状態で、少年はその銀灰の目で俺を見た。

「アンタがザンザスかぁ?」

使用人たちは皆俺を「坊っちゃん」と呼ぶ。
ただちに上司の執事から説教を食らっている奴を、俺はただ呆然と見ていることしかできなかった。


そいつは代々俺の家で執事をやってる家の出で、名をスクアーロと言った。年の若いそいつは、必然的に俺の専属に加わった。俺はカスと呼ぶことにした。

学校の迎えも、一人だけ小さくて目立つし、それだけでなく、行動も突飛だった。大声で呼ぶ。敬語など、めったに使わない。
帰りにまで付きまとってくる同級生(大方、親に親しくしておけと言われているのだろう)に向かって、「ゔぉおい!残念だがザンザスはオレが連れてくぜえ!」などと言って同級生たちが誘拐だと勘違いした時からは、さすがに人前ではおとなしくするようになったが。

見た目もだ。
珍しい純粋な銀の髪を短く跳ねさせていた。
その手触りがクセになってよく触っていたら、「気に入ったかあ?なんなら伸ばしてやるよ」とケラケラ笑った(執事がやたらめったら人前で笑うなと、殴っておいた)。冗談かと思ったら、ほんとに伸ばしやがった。

執事としては全くの不合格だったが、なんでかこの執事の前でだったら羽が伸ばせている気がした。そんな気分が心地よかった。
その純粋な笑顔を見ると、自分も笑ってるように思えた。

その笑顔を曇らせたのも、俺だった。



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