NOVEL
□ぼくらは、いた
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1.
例えばカラダを売ったり、ヤクを売ったり、殺したりなんてことは日常茶飯事だ。ここ、とある下町では。
気付いたらひとりぼっちだった。
気の優しいおばさんなんかは、まだ小さいのにかわいそうっていうけどオレだってもうとっくに10は越えているはずだ。教えてくれる人がいなかったから正確な歳はわからないけど。
10も越えたら人だって殺せる、カラダだって売れる、何時間も働ける。
まだ若いって?まさか。下町じゃぁ常識だ。
ズボンのポケットに手を突っ込むと、いつもより多い報酬たちがジャラリと音を立てた。
今日の客は気前がよかったからな。キモいじじいだったけど。また来るっていってた。
ちらりと街の方を見ると、煌びやかな電灯がきらきらと輝いている。
神様は、ひどい。
なんでこう人間に差をつける。こんなに一人一人の差がある生物なんて人間くらいしかいないだろう。
少年は、そのまだ未発達な細い喉を震わせながらため息をついた。
空はもうすっかり暗くて薄暗い下町からは星がはっきり見える。
冬になりかけた冷たい空気が狭い路地を吹き抜けた。少年の整えられていない、けれどふわりとした綺麗な銀髪が舞い上がる。
彼の通り名は『鮫』。
その外見には似付かわしくない獰猛で、狂暴な動物の名だった。
少年の薄い上着が捲れ、腰に差した長いナイフがキラリと光った。
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