NOVEL

□甘い、あまい
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「これかぁ」

甘い香りを頼りにアジトの庭を進んでいくと、周りのとは違うこんもりとした木が現れた。
一見ただの木なのだが、近くで見ると橙色の小さな花がたくさんついているのがわかる。
お世辞にも綺麗とは言いがたいが、その香りは薔薇にも劣らないだろう。
丁度よく風が吹いて、自分へとその香りを運んだ。

「ん゙ークセになるなぁ……んっ!?」

いたい。
いや実際にはかほどのダメージもないのだが、もどかしい感覚が目を襲った。
どうやら目に何かが入ったようだ。

「いっ、だぁぁ…」

鏡がないのでどうにも確認ができない。かといって無闇に目を弄っては余計に酷くなるような気がする。
瞬きをするたびにチクリと目の奥を何かがつついて、左の目からだけ涙が出てきた。

「何してんだ、カス」

「ゔぉおい!ボス!?」

仕方なしに痛みを我慢して涙だけ袖で拭っていると、いつのまにやらいたらしい、ザンザスがこちらに向かって歩いてきていた。
泣いているのを見てか(生理現象だぁ!)いつもより顔が険しい。

「え、えーっとな、目にごみが入ってなぁ、取れないんだぁ」

剣士がメソメソしているところなど(何度も言うが生理現象だ!)ボスに見せられるものではない。
やはり強制的に取り除こうと目を擦ろうとしたが、ボスに腕を取られてやむなく未達成に終わった。
強引に顎を上げられて、そのまま目と目が合う。

「ボ、ボス?」

「チッ、結構充血してやがる」

「まじかぁ」

下瞼を下げられたり、顔を動かされたりしながらも、どうしてもボスの目から目が離せない。
ただ見て貰っているだけなのに、なんだかキスする前みたいでドキドキしてしまう。
本当に綺麗な紅色をしている、と、思う。

秋晴れの日光に透き通る瞳を目の痛みも忘れて眺めていると、不意にいきなりその紅が自分との距離を縮めてきた。

「え、ぅお゙…」

「動くな」

最後に見えたのは、あの紅とは違う鮮やかな赤。


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