NOVEL
□ご主人様って言ってみな
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「おい、カス!カースー!」
屋敷にザンザスの声が響き渡る。
主人の一声あればすぐに動く。執事の基本だ。スクアーロも例外ではない。
ただし、言動は粗雑であるが。
「るっせぇなぁ!何回も呼ぶギャアッ」
「ノックをしろ、口を慎め、足音は極力立てるな、このドカスが」
「最後のは悪口だぞぉ!」
聞き慣れた言葉にぼやきながらスクアーロは投げつけられたものを拾った。
やけに軽いものがぶつかったと感じていたが、それも当然、落ちていたのはタイだった。
「あ゙?タイ?」
「つけろ」
ザンザスは顎を少し上げて、自身のまだ何もつけていない首元を指さした。
普段はこんなことなどさせない。ネクタイは自分でつけている。
「…できるだろぉ、自分で」
「早くしろ」
自分の主人は言い出すと聞かないことくらいわかっていた。
自分のより高い場所にある首に、スクアーロはタイを通した。
あんなに小さかったのに。
まさか自分より大きくなってしまうとは…。
逞しい首筋、厚い胸板、男らしい骨格。男として、なんとも羨ましい。
感傷深くなりながらも、手慣れた手つきで主人の首元のタイを結んでいく…のが止まる。
「…あのよぉ」
「なんだ」
「視線が痛ぇ…」
先程から額の辺りにひしひしと視線を感じていた。
上記の通り、ザンザスの方が背が高いので、目の前のタイを結んでいると視界の上の方に主人の顔がちらつく。合いそうで合わない視線。凄く気まずい。
「他に見るものがねぇ」
「…そうかぁ…」
視線に耐えつつ結び終えたタイを整えると、ザンザスの服装は後は上着を羽織るだけで完璧だった。
「テメェは?」
「は?」
「その格好で行くのか」
「だ、ダメかぁ?」
その格好、といってもいつものシンプルな燕尾だが。
彼の様子からすると、どうやら気に入らなかったようだ。押し黙ってこちらを眺めているのが実に恐ろしい。
「わ、わかったぁ、今日はオレは行かな」
「シャツ」
「………え゙?」
「シャツを替えてこいってんだ、カス」
一瞬唖然としたスクアーロだったが、すぐに踵を返して廊下を駆けていった。
こういうときにモタモタすると殴られるのは百も承知だ。
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