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□五万打記念小説
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ザンザスとスクアーロが再び触れあうことができたのは、指輪戦の後処理が一通り終わり、形を変えたヴァリアーが業務を再開させてからのことだった。その頃には既に戦いの終わりから丸一年以上が経過し、二度目の冬がイタリアを包み始めていた。
冷えた右手の指先を更に冷えた左手と擦り合わせながら、スクアーロは窓の外を見た。
夕暮れもすっかり早くなり、太陽はとっくに見えなくなっていて、紫色の名残が東の空を染めていた。その中を一人、また一人と隊員が闇に溶けていく。どこかの夜会で任務でもあるのだろう。
もうかれこれ五分以上はこの窓から外を見ている。どうしても廊下のこの角を曲がる決心がつかないのだ。
この角を曲がれば、彼のテリトリーに入る。気配やその息遣いまで悟られてしまうだろう。
角を曲がった先、そこにはザンザスの執務室へ続く扉があった。
もうかれこれ、半年はまともにザンザスの顔を見ていない。春先に行われた本部での尋問に立ち合わされた時、数回視線を交わしたのが最後の記憶で、何も口に出すことは許されなかった。
(どんな顔して会えばいいってんだぁ…)
業務再開以来、組織の次官であるスクアーロは休む間もなく働いていた。各地を飛び回り、この屋敷に戻ってきたのはほぼ半月ぶりだ。
その間にこなした任務の報告書や諸々の書類を提出しに、彼の上司であるザンザスの執務室に向かったはいいが、どうしても会う決心がつかない。
敗北を喫し、でも生き延びている自分達。
彼が決定的に変わってしまっていたら、どうすればいい?
自分が決定的に変わってしまっていたら、彼はどうするのだろうか。
自分たちの間にあるものに、何か傷がついていたとしたら。
スクアーロは、それを考えていた。もう、長いこと。
髪は、どうすれば良いか分からないまま腰を過ぎた。一人で切ってしまうには、伸びすぎていた。
真っ暗になってしまった窓の外。ガラスに反射した自分の顔は見たくない。そっと溜息をついて窓から離れると、スクアーロは爪先を動かした。
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