04/22の日記

22:54
前回の蓮柏( ♀)小話の続き
---------------
空から生徒手帳が降ってきた。
学校の中庭で、少年――蓮は、間一髪それを避け、拾う。

「……なんで生徒手帳が」

見れば、そこには嫌という程見慣れた名前。成る程、と蓮は思わず納得してしまう。あの人の生徒手帳なら、空から降ってきてもおかしくない。蓮にさえそんな無茶なことを思わせるような名であった。

見上げれば、開いた窓から聞こえる喧騒。


『逃げないでください先輩! チャイナ着るならしっかり採寸しないと! それが千歳百歳を悠に越ゆ、我が母国の至宝に対する敬意です!』

『いっ、いやですっ! 芳蘭さんが自分で着ればいいじゃないですか!』

『私は柏原先輩と影崎先輩に色違いのチャイナドレスを着せたいんです! 並べたいんです! 撮りたいんです! 愛でたいんです!』

『ひゃ、だ、駄目ですっ!! そんなっ、せめて更衣室でぇぇえぇえぇぇぇっっ!!!!!』



「……………………」


蓮は暫し押し黙り、それから生徒手帳を、ポケットに入れた。一度拾った以上、流石に此処に捨て置くほど非情にはなれない。
後で渡せばいいだろう。そう考えて、蓮は自分の教室へ向かった。


そして今、猛烈に後悔している。


放課後、生徒手帳を私に来て、窓から何気無く中庭を見下ろした、その先に。
件の先輩が、泣いていた。
どうやら生徒手帳を探しているらしい。同じようなところを何度も何度も、花壇につまづいたり壁にぶつかったりしながら、石の下まで探している。

そんなに大事なものなのだろうかと、蓮は柏原の生徒手帳を見つめる。なんてことない、無くしたとしても注文できる、量産品。柏原もそれを知らぬわけではないだろう。なのに何故、あんなにも、必死に。

何気無く生徒手帳をめくり、蓮は目を見開いた。

「……ぁ、」

理解。
理解した。

表紙をめくったそこには、写真が貼られていた。
俗にプリクラと呼ばれる、きらびやかな写真。
あからさまに戸惑う柏原と、どことなく戸惑う影崎を、両手に抱き抱えた芳蘭。両手に花、という落書きが眩しい。
初めて見るらしい機械よりも、自らを抱き締める腕に戸惑っているように、蓮には見えた。
そんな写真を目にし、蓮は理解した。納得したのだ。

ああ、そうだ。
あのひとは、これのために泣けるひとだ。


一つ、ため息。
それから、鞄の中を探る。何処かにある筈のそれが見つからないのがもどかしくて、中身を全て廊下にぶちまける。幸い、廊下は無人だった。
散らばる教科書やらノートやらに埋もれた、ちいさな飴を握りしめ。


「……泣き虫」


小さく毒づいてから、蓮は泣く少女へと飴を降らせた。

前へ|次へ

コメントを書く
日記を書き直す
この日記を削除

19:55
柏崎双子女子高生な蓮柏小話
---------------
空から飴が降ってきた。
甘い。
甘いはおいしい。
おいしいは幸せ。
学校の中庭で、少女――柏原は、先ほどまで泣いていたことも忘れ、ふにゃ、と笑う。
と、ふいに疑問符が浮かぶ。

「……はれ、なんで空から飴が落ひてきたんれしょう?」

「食う前に考えろ!!!!」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

激しい怒声に柏原の背筋が伸びる。その声もまた、空から降ってきた。ここでようやく、柏原は上を見上げる。
校舎の窓から顔を出す、麗しき銀髪の少年。

「……蓮ひゃん?」

「遅いッッ!!!!」

「す、すいませんっ!!!!」

ぺこぺこと頭を下げる柏原の耳にも、蓮のため息は届いた。怒らせてしまったろうか。あ、この飴中に何か入ってる。甘酸っぱい、ソース……いや、ゼリーだろうか。おいしい。

「何度でも言います、ええ言いますとも、あなたは危機感が無さすぎます!! 毒でも入ってたらどうするんですか!?」

「……えっと……保健室?」

「病院行け!!!!!!」

若い怒号に校舎の壁がびりびり震える。柏原も思わず身をすくませるが、それは一瞬のことで、すぐにまた、ふにゃ、と笑う。

「ありがとうございます」

「何がですかッ!!!!」

「この飴、蓮ひゃんが降らひてくれたんですよね?」

面白いように。
面白いように、少年は固まった。停止した。指先まで動かない。
しかし血液の流れは活発なのか、みるみるうちに赤くなる。

「……当たらなかったんですよッ!!!!!! 絶対頭に当ててやろうと思ってたのにッ!!!!!」

流石に、いくらなんでもこれは流石に、柏原にも嘘だと分かる。
柏原は本当と嘘を見分けるのは、苦手だ。
でも、この少年の本当を、柏原は無自覚ながらもひどく正確に見抜いていたのだ。

優しい少年。
優しすぎて、自分の優しさに気づけない少年。
見ようによっては滑稽な、しかし羨ましいほど真っ直ぐな。

慰めてくれようとしたのだろう。泣いていた自分を、気遣って。

嬉しくて、幸せで、やはり柏原は笑う。


「とってもおいひいですー」

「……ッ……物を口に入れたまま喋るんじゃありませんッ!!」

その言葉を受け、柏原は慌てて口を両手で覆う。先輩の威厳という言葉は遠く彼方にあるらしかった。

「別に口から飴出せばいいじゃないですか!!」

「ふぇ、だって蓮ひゃんがくれた飴ですよ?」

当たり前のように返された言葉に、蓮は慌てるのを通り越し、硬直する。
一呼吸おいて、その耳たぶまでもがぼうと朱に燃えた。白銀の髪にまで燃え移りそうな程に。

「……なっ……何なんですかあなたは!! ああもう本当に、訳が分からない!!」

「ですから、蓮ひゃんがくれたから、」

「頼むから黙ってください!!」

叫ぶと共に、蓮は手にしていた何かを思いっきり投げた。びたりと柏原の額に当たり、落ちる、それは。

「いたた……はれ?」

額を押さえながらそれを拾い上げ、柏原は気づく。
それは柏原の、生徒手帳だった。ずっとずっと、探していた。探して、見つからなくて、涙さえ零れていた、大事な大事な。

「蓮ひゃん、これ……」

見上げれば窓には誰もいなかった。やたらと荒い、誰かが全力で走っているような足音が、柏原にまで聞こえる。どうやら投げつけた直後に走り出したらしい。

ああそういえばと、柏原は無人の窓を見つめる。
一年の蓮には縁の薄い筈のその階は、柏原のクラスがある階だ。

つまりはまあ、そういうことだろう。



「……うわぁ」



それしか、言えなかった。
どんな言葉も、このどうしようもない衝撃を表しきれるはずがなかった。
自分はなんて幸福な人間なのだろう。罰が当たりはしないだろうか。
当たるなら、それでいい。それを受け入れられるだけの満ち足りた思いがある。

それから柏原は、開けっ放しの窓を見続けていた。
飴が溶けてなくなったのにも気づかぬままに、笑って。












柏崎組は三年生。
圭くんと芳蘭さんは二年生。
蓮くんは一年生。
迷った末、蓮くんは先代の方の蓮くんとしました。

にょた設定をうまく活かせなかった。課題。

この二人はもう見てて恥ずかしくなるような中2してればいい。

前へ|次へ

コメントを書く
日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ