レンタルマギカ

□作成途中
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かなり意味不明注意。
音子の影崎過去捏造話(レンタルマギカにある「魔法の呪文」という駄文のことです)を読んでないと更に意味不明。
両者キャラ完全崩壊注意。精神崩壊気味な影崎さんと優し過ぎて気持ち悪い圭くんに耐えられそうにない方は閲覧をご遠慮ください。



















一面の紅。
血ではない。

「…あー…なんつーんだっけ、これ…」
「彼岸花です。曼珠沙華、とも呼びますが」
「博識だな」
「常識です」
「それはつまり知らない俺が馬鹿だと言いてえのか?」
「いえ、そのような意味では」

生真面目に答えるダークスーツの漆黒は、紅によく映えた。だからどうした、俺。
花を愛でる趣味は無いので、そのままそこを通り過ぎようとするが、隣の黒が動かない。何だこいつ、またいつもの意味不明行動か。生憎俺は疲れているんだ。

「…先、帰ってるぞ」

声をかけるが返答はなく、代わりに赤い海へ左足を一歩踏み出す。
右足。
左足。
右足。
左足。
一歩一歩、操り人形のような歩みに、いつもとは違う何かしらを感じ、歩み寄って表情を確認した。
いつも通り無表情だったが、いつも通りではない無表情。
目が、違う。
鏡のように色を反射するのではなく、砂のように紅を吸い込む、目。

「…影、崎」

再度呼び掛けた自分の声の弱々しさに驚いた。
影崎は、反応を返さない。
細い体躯は吸い込まれるように、花へ、花へ、花へ。
何だ。
何なんだ、これ。
なんか、すげえ気持ち悪い。吐き気がするが、吐けない。影崎しか適応できない世界に、うっかり落ちてしまったような感じだ。
一陣の風。無数の花達が歓喜と歓迎の意を低く歌う。その声は、震えながらも良く伸びた。
歌声に憑かれたように、影崎の足は赤い海へと進む。奥へ。奥へ。更に奥へ。
それはまるで、入水自殺。

もう一陣、風が強く薙ぐ。彼岸花の血色の花弁が、影崎の闇色の髪が、共にざわりと舞う。植物めいた無表情は、あまりに虚ろで。
拐われる、と感じた。影崎は、このままこの異様な世界に拐われる。連れていかれる。持っていかれる。吸い込まれる。引き摺りこまれる。

そうして、帰って来なくなる。


「影崎」

血の海に足を踏み入れ、影崎の正面に立つ。影崎の視界に入るが、見られてはいない。砂の瞳はただ無感情に血を吸い込んでいる。

「影崎」

肩を掴む。
目が勝手に見開かれ、いきなり視界が広がった。
掴んだ肩が、予想外に薄かったから。
広がった視界の中心にいる影崎は、俺より小さかった。

「影崎」

呼ぶことしか、できない。抱き締めたらきっと崩れ堕ち、そして溺れていくだろう。在りったけの花に飾られて。
ひとりぼっち、で。

すっと目に浮かんだその光景は、直視しているかのように生々しく、美しかった。
そして、どうしようもなく、哀しかった。


「…聞いてんのか!!!!!!!」


怒鳴りつけた。なんか自分でもよく分からん怒りやら悔しさやら寂しさやら悲しさやら虚しさやら他の何かやらを全部丸めてぶつけた。
すると、掴んでいる肩が、ちいさく震えた。

「……ぁ……」

一瞬、珍しく驚いたように目を丸くして。

「……ごめん、なさい」

ちいさく、虫の鳴くような声で呟く。その声は、感情がすっぽり抜け落ちているくせに、非道く弱々しく聞こえた。
黒い目は虚ろで、此処でない何処かを映している。たぶん、此処のような血の海を。
ならば、影崎は誰に謝っている?
何か悪いことをした訳でもない影崎に怒鳴りつけた俺に…影崎は、誰の姿を重ねている?

「…ごめんなさい…」

繰り返される謝罪はやはり弱々しく、影崎ではないようだった。
その声も、表情も、どこか幼くて。この膝まで達しぬ紅い海で、容易く溺死してしまいそうで。

「…ごめんなさい…」

非道く幼い声で、影崎は、呼んだ。




「…―――――…」




それは誰が名であったろう。
あまりに小さいその声は、圭には聞き取れなかったけれども。
その声は、どうしてだろう、泣いてしまいそうに聞こえた。
でも、どうしてだろう、泣けなそうに聞こえた。
でも、どうしてだろう、俺が泣きたくなった。
でも、どうしてだろう、俺が泣いてはいけない気がした。
切なくて、堪らなかった。色々な感情が胸の中で跳ね回る。

「…人違い、だ」

ようやく絞り出せた声は、震えを抑えきれていなかった。

「俺は、石動圭だ」
「……いするぎけい……?」

機械的に反復し、影崎はぼんやりと俺を見る。その黒い瞳に光はなく、焦点が合っていない。それでいて、どこか幼い。

「…いするぎけい…」

機械的に、刻み込むように繰り返し、影崎は唐突に俺の顔に手を伸ばす。
頬に触れた指先は、非道くつめたい。寒い中ずっと一人で突っ立っていたように。
指先から指が、そして掌全体が、俺の左頬から顎にかけてを包む。

「…顔が…あります…」

無感情だった黒い瞳に、うっすらと、だが純粋な、驚愕の色が滲んだ。

「…ぐちゃぐちゃじゃ、ない…」
「………………」
「…それに、」

あったかい、です。影崎の言葉に、自分に重ねられていた人物の状態を想像し、少しばかりの嘔吐感を飲み込む。

「…何言ってんだよ」

気まずさを誤魔化す為、口にしたのは当然の理屈。
何気無い、本当に大した意味の無い、適当な言葉。意味を自分で確認する前に、口唇から滑り落ちていた言葉。



























「当たり前だろ。生きてんだから」























圭は知らない。その言葉が、影崎にとってどんな意味を持つかを。
その、救いを。





「……ぁ…」

俺の至極当然かつ当たり前かつ常識的かつ普通な言葉に、影崎はまるで驚いたかのように目を丸くして。

「…生きてる…?」
「…たりめーだろが」
「生きて、る」
「おお」

影崎は確かめるように俺の顔をぺたぺた触ると、感慨深げに息をついた。珍しい。

「影崎」

何となく読んでみた。
すると、すっと影崎の目の焦点が合って。
その瞳が、黒い黒い瞳が、何処かでなく此処を、此処でなく俺を、映した。



「石動、さん」



百年振りに名を呼ばれたような錯覚。
そう、錯覚なのだ。
どうしようもなくリアルな。

「…おう」

返事をすれば、何故だろう。
いつも通りの無表情に、少し安堵と喜びが滲んだ気がした。














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