小説

□予感
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今日は一体何人の天人を切ったことだろう。
銀時はもういちいちそんな事も考えなくなった。
ひとしきり戦った後、生き残った者と古びた廃屋に疲れ切った体を引きずって帰る。銀時の心も毎日繰り返されるこの現実に、少し疲れを感じていた。
                      銀時は、返り血や天人の体液で汚れた体を洗おうと井戸へ向かった。
ざぱん、ざぱん、と水の音がする。誰かが先に水を浴びているようだ。
長い黒髪に水が滴っている。随分と色白で華奢な背中だ。銀時がその背中を誰かと間違えるはずがない。いつも自分の背中を預けているのだから。
ふいにその露わな背中に、銀時は後ろから手を回しそうになったが、思いとどまった。
(今更、抱き締めて何になる?)
もう、自分達の関係は随分前に終わったのだと銀時は自分に言い聞かせた。
「銀時か?貴様も水浴びに来たのか。俺はもう終わるから、ゆっくり洗って行け。」
「ああ。」
「洗うの・・・・手伝ってやろうか?」
(どうしてこいつはこう、気安いんだ。勘違いするじゃねーか。大体何だ、手伝うって。銀さんのあんなとこもこんなとこも洗ってくれんのか?いや、もう考えるのやめよう。妙な気分になる・・・)
「いいよ。お前はヅラでも乾かしとけ」
「ヅラじゃない、桂だ。分かった。では、明日も宜しく頼むぞ」
桂はそう言うと、足早に去って行った。

(銀時はもう俺のことを何とも思ってないのだろうか。さっきもさりげなく断られたしな・・・・・)
自分から銀時に別れを告げた手前、未だに彼のことを想っているとは言い出せない。告げたとしても、銀時が自分の事を何とも思っていなかったら今ある信頼関係は揺らいでしまう。あの時は、銀時の気持ちに不安になって自分を思ってくれる高杉を選んだ。だが、数ヵ月もしないうちに、銀時を忘れられない気持ちに嘘がつけず、高杉とは別れてしまった。高杉には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。だが今は、高杉は友人として、桂の良き相談相手になっている。桂は銀時の事で今も相談にのってもらう事が多い。「銀時の俺への気持ちが分からない。不安になる。」と相談すると、高杉は「何か生き物を飼え。気持ちが安定する。」と言った。高杉は自分の中に黒い獣を飼っているらしい。それはちょっと意味が違うんじゃ・・・・・と桂は思ったが何も言わずにおいた。「まあ、こういう事は、なるようにしかならねえ。お前も長期戦だと構えて、腹くくるんだな。」と、言って煙草の煙をフッと吐いた。


銀時の視線の先には、高杉と楽しそうに話す桂の姿があった。この前は、二人仲良さそうに寄り添って座っていた。銀時の前では見せたこともない、柔らかな表情で桂は笑っていた。
(やっぱり桂はまだ高杉のことが好きなんだな。)

銀時は戦いにも、桂への届かぬ想いにも、全てに疲れを感じた。



「銀時の姿がないぞ」
仲間達の声に桂は目を覚ました。
昨夜は大部屋で、皆と一緒に桂の隣で銀時は寝ていたはずだ。
昨夜の銀時は少し様子が違っていた。
「ヅラ、あんまり無理すんなよ」
と、いつも言わないようなことをくちばしっていた。
「銀時・・・・・・!」


                      桂はもう、永遠に銀時に会えない気がした。

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