紀章
□2015.08.11
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「あのさ、8月11日なんだけどさ。」
「あ、何かプレゼントのリクエストある?」
「え?・・・いや、そうじゃなくって。」
自分がしたかった話は一先ず横に置いておいて、このやりとりに懐かしさを覚える。
2人で過ごす初めての俺の誕生日の時にも俺は同じ切り出しで日付を口にしたのだ。
すると雛姫は先ほどと同じようにプレゼントのリクエストを聞いてきた。
それまでの俺は雛姫に自分の誕生日がいつだとか近々そうなんだ等と言う話をしたことがなかったにも関わらずだ。
なのに彼女は日付を口にしただけでこういう反応をしてみせたのだ。
最初から普段全くと言っていい程、仕事関係の話を振ってこないのでたまに忘れそうになるのだが彼女は昔から俺のファンだ。
だから誕生日だって知ってくれていて、さも当然の如くああ言ってみせたのだ。
「同じ反応するんだな。」
懐かしさに浸ってしみじみとしていると雛姫がハテナマークを浮かべて首を傾けた。
「ん?誕生日の話じゃなくって?まさか山の日っていう話?」
「いや、山の日はいいんだよ。そうじゃなくってね。」
「・・・ん?」
「その日、会えないんだよね。ごめん、仕事。」
「うん。じゃあ別の日にお祝いしようよ。」
「お前…相変わらずあっさりしてんなー。その日に祝いてーとか、会いてーとかねーの?」
「だって仕事なんでしょ?」
「そうですけどねぇ。」
いや、この反応は想定内なんだけれど。
だってだいたいいつもこうだから。
仕事だって言うと雛姫はこうなのだ。
ただ1年に1度の誕生日なわけだしもうちょっとなんかあるかなっとか。
思ったりもして。
つまりちょっとくらいは甘えてくる雛姫を期待したりもして。
いや、仕事でどうしようもないことをぐだぐだ言われたってそんなの鬱陶しいだけだし面倒くせーって俺は思うだろう。
だから理解力のある彼女のおかげで俺たちはうまくいっているのだって解ってんだけど。
それでもたまに、ちょっとくらいはそれを寂しくも思うわけですよ。
だってなんか俺が俺自身に、俺が声優谷山紀章に負けた気分になんだよ。
「なんかお前ってドライなんだよな。」
「んー。そうかな?」
「そうだろ…。」
「じゃあ、当日に2人きりでお祝い出来なくてごめんね。本当は2人きりでも会いたかったな。」
「悔しい。言わせた台詞なのに可愛いと思ってしまった。」
「本心だよー。」
「11日に日付変わる時は多分まだ仕事してる。遅くなってもいいんなら当日時間作るけど。それか仕事、都内だから付いて来てもいーよ。」
「あ、大丈夫。お仕事頑張ってくれたら私はそれで。」
「・・・あっそ。」
想定内、想定内…。
わざわざ地方のライブに来てくれてもその楽屋には来ない女が都内だからって付いてくるわけねーんだって。
「怒らないでよ。別の日にサービスするよー。」
「サービス。何してくれちゃう系の?」
「なんでもいいよ。」
「へぇ。なんでも、ねぇ。」
「うん、いいよ。後は、何食べたい?行きたいお店ある?お家で作ってもいいよ。」
「んー考えとく。何をお願いしましょうかね。」
「いいよ。全部言うこと聞いてあげる。」
雛姫はそう言って俺の腕に自分のそれを絡めて猫のように縋り付いた。
「お前ってそういう感じだよな。」
「そういう感じ?どういう感じ?」
「んー?うん。ドMな感じ?」
「えー?いきなり何ー?何でー?」
俺を全部受け入れちゃうっていうか?
俺に従順過ぎっていうか?
俺のこと大好き過ぎっていうか?
俺に超ど級に甘々っていうか?
俺の仕事に関してドライなくせに普段は真逆だとか。
あーあ。
もう本当、この子が好き。
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