達央

□10回クイズ
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俺の彼女はすげー素直で愛らしい。

たまに被った休日には外にぶらぶら買い物に出かけることが多い。

手を繋いだりなんかして雛姫に合わせて普段の自分よりも随分とゆっくりなペースで歩くのはなんだかむず痒くて、でもそれがすげー幸せだって思ってる。

しかし今日は生憎の天気なので俺の部屋で過ごすことにした。

たまにはこういうのも悪くない。

時間がゆったりと流れていく気がする。

別に一緒のことをしていなくたって同じ空間にいて同じ時間を共有しているだけでなんだか心が落ち着いていく。

雛姫といるだけですげー癒されるっつーか。

だから結局こいつと居られたらそれだけで俺は最高ってこと。


雑誌を読んでいたら欲しいなってタイミングで雛姫がコーヒーを入れてくれた。

「サンキュ。」

「どういたしまして。」

お揃いの色違いのマグカップに注がれたコーヒーの香りが鼻孔をくすぐった。

上質な良い香りがする。

きっとインスタントじゃなくドリップで入れてくれたやつだ。

雛姫が自分のマグカップを口元に持って行ってふぅふぅと息を吹きかけた。

それからそろーっと慎重に一口飲んで味に満足したのかうんうんと小さく頷いた。

あーあ。

お前の行動とか仕草とか、いちいち可愛いんだっつの。

おもしれーやつめ。

愛おしいやつめ。

じっと見ていたら雛姫が視線に気付いて振り返った。

「なぁに?」

「別にー。」

雛姫の淹れてくれたコーヒーを一口飲むと思っていた通り深い味がした。

「ん。美味い。ありがと。」

「たつ、誤魔化してなぁい?」

「何が。見てただけだろ。可愛いなーっつって。」

「もー!」

冗談じゃねーっつの。

全くその通りだっつの。

「もういいよ。ところでさっきから何読んでるの?」

「んー?雑誌のくだらねークイズ。」

「クイズ?面白そうじゃない?」

「んじゃあ雛姫ー。」

「なぁに?」

「ダンスって10回言って。」

「ダンスダンスダンスダンスダンスダンスダンスダンスダンスダンス!」

雛姫は俺の言った通り指を折りながら10回分言い終え期待の籠った瞳で見つめて続きを促した。

「ドラえもんが寝てるとこどーこだ。」

「タンス!」

「はいブー。押入れでしたー。」

「引っかかったー!次もっと簡単なやつでお願いします。」

「これ難易度1だから。」

「えー、難しいよー。っていうか楽しいじゃん。」

そこまで見事に引っかったらそうだろうね。

まぁなんつーかだから結局そういうところがね。

この子が愛しい理由の一つなわけだけど。

「んじゃあ簡単なのね。」

「はい。お願いします。」

「ハグって10回言ってみ。」 

「はぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐ!」

雛姫が言い終わるのと同時に雛姫に向かって両手を広げてみせた。

「なんか俺にして欲しいことは?」

「ぎゅーっ!」

「あっれ。そこはハグって言うところだけど?」

言いながら雛姫の頭を抱え込むように引き寄せた。

っつかこれ、クイズでもなんでもないけどね。

全くなんの捻りもない問題。

引っかけ問題なんかじゃないからね。

だって俺がお前を抱きしめたかっただけだからね。

「だって、たつにぎゅーってして欲しい。」

「おーよしよし。」

だからこいつは可愛いんだってまた思って何度も思ってついつい口元が緩んでしまう。

彼女のお望みの通りにいつもより少しだけ強く腕に力を込めた。

後頭部に回した手に髪を絡ませる。

指で耳にかかる髪を払いのけて露わになった耳朶を甘噛みした。

「ふっ。」

雛姫が小さく吐息を漏らす。

敏感な反応を見せる雛姫が更に俺を擽ってくる。

「で?ぎゅーだけでいいん?」

「・・・・・・じゃあ。」

「ん?」

「好きって10回言って。」

甘えた声で可愛らしくねだられて緩みっぱなしの口から笑い声が漏れ出てしまう。

「えーっと、好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き。」

「ありがとう。」

「・・・あ?」

「私もたつが大好きです。」

「なんだソレ。ぶはっ。クイズじゃねーのかよ。」

噴出した俺に釣られて雛姫も控えめに笑い声をあげた。

「あー。も、お前って本当。」

「んー?」

「可愛いわ。」

「・・・照れるなぁ。」

雛姫は言葉通り頬を少しだけ赤く染めた。

それから首を傾げて満面の笑みで見つめてくる。

あぁもう本当。

こいつが愛しくてしょうがない。

「雛姫、キスって10回言って。」

「キスキスキスキスキ―――んっ」

俺に言われた通り指を折りながら繰り返している雛姫の唇を唇で塞いだ。

「んーっ。まだ、言い終わってない、よ。」

「ごめん。待てんかった。」

「えー?ふふ。何それ。」

「ん、黙れよ。もう一回。」

「ん。」

強引に塞いで俺の好きにさせて。

抗わないで俺だけのものでいて。

俺からだけじゃなくお前も俺を求めて。

俺だけ欲しがれよ。

「ふぅ…んっ。…ぁっ」

舌を刺し入れて何度も角度を変えたキスを堪能すると雛姫は素直に色っぽい声を出した。

「んじゃあ問題ね。」

「え?」

「ぎゅーしてちゅーしてその後は?」

その後は?

挑発的に促して余裕の笑みで見つめた。

雛姫は頬を赤くして緩く下唇を噛んでみせた。

「んー?」

雛姫の熱くなった頬を擽る様に撫でてやると雛姫は切なそうに瞳を揺らめかせた。

困ったように眉尻を下げた表情は少し泣きそうにも見える。

噛んでいた唇を薄く開いて物言いたげに見上げてくる。

「・・・たつ。」

「んー?」

「あの、えっと…」

「ん。」

「・・・・・・」

「・・・あーあ。」

「・・・え?」

「降参。待てない。だから時間切れ。もう襲う。」

「んん?」

俺に余裕なんかあるわけねーだろ。

余裕ぶってただけだかんね。

そんなに待てねー。

だから俺を待たせるな。

「ぎゅーしてちゅーしてその後はね。」

「っあ…やっ…んっ。」

「俺とお前、一つになんだよ。」

だからそうやって素直に反応して。

俺の手に、唇に、視線に、夢中になって。

他のことなんか何も考えられなくなっちゃうくらい、まるで世界には俺たち2人だけしかないみたいになっちゃうくらい、俺のことだけんなって。

お前と居ると幸せなの。

お前と居ると癒されんの。

お前と居ると抱きたくなんの。

なぁお前は?

「お前は俺と居てどう思う?」

「え?」

「俺はお前といるとすげー幸せだなって思う。お前は?」

「私はね、たつと居るとドキドキする。」

「なの?」

「そうなの。でもそのドキドキが嫌じゃないの。苦しいのに嫌じゃないの。それがとても幸せなの。」

そう言った雛姫があまりにも綺麗に微笑むものだからもっとこの甘くて幸福に満ちたやりとりを続けたいと思うのだけれどそれ以上の欲望が大きく膨らんで邪魔をする。

触れる度に甘く啼く雛姫が俺の名を呼んで何度も呼んで俺を耳から侵していくんだ。

「たつ、好きって10回言って。」

「好き。好き好き好き。雛姫、好き。好き好き。好き、好きだ。好きだよ。」

「私もたつ、好きぃ。」

「じゃあキスしてって10回言って。」

「キスして。キス――んんっ」

「やっぱ10回とか無理。待てねぇ。」

「ふふ。1回しか言えなかった。」

「大丈夫。ちゃんと10回分してやるから。」

「じゃあ、安心。」

雛姫が俺の首に両腕を絡ませキスをねだる。

それに応えて残りの9回分、唇を合わせた。

互いの体温を混ぜながら互いの唾液を混ぜながら幸福感で満ちていく。

「すげー幸せ。」

「私も幸せ。」

呟くように幸せだと口にすればすぐに同じ答えが返ってくる。

俺を幸せにしてくれるのは間違いなくお前でお前を幸せにするのも俺だって思ってるから。

「すげー好きだよ。言葉になんないくらい。」

「それ、解る。好きって言葉じゃ足りないの。」

「お前が俺と同じだったら嬉しい。でも多分、俺のがもっと雛姫のこと好きだと思う。」

「ううん。私の方がたつのこともっと好きだと思う。」

「いいや、俺だね。」

「私だと思うの。」

「これって答え出る?」

「・・・いつかは出る?」

「いつかって?」

「もっともっと何年か何十年か先とか?」

「じゃあその時、覚えてろよ。」

「え?」

「ちゃんとずっと幸せにすっからさ。」

ずっと先もそのままのお前で居て。

ずっと俺の隣で笑ってて。

「だからずっと俺と一緒に居て。」

「うん。」

「じゃあ、そろそろ話はやめ。」

「ん?」

「続き、しよ。」

雛姫の手に自分の手を重ねると雛姫がするりと自分の小指を俺の小指に引っ掛けた。

俺が小指に力を込めると雛姫は幸せに満ちた表情で微笑んで俺のキスを受け入れた。

約束しよう。

ずっと一緒にいるって。

誓うよ。

ずっと幸せにする。

ずっと好きだって。

だからね、雛姫。

ずっと俺の隣に居て。

何年何十年先に負けを認めて。



end.
2015/07/14

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