朧夜・長編
□モノに勝りし 10
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「鬼島津。」
「んー?おぉ!おんしは軍神どんの忍でなか!よう来たのー!」
昼間安芸を出たかすがは道中特に問題もなく、夕暮れ前に薩摩に着いた。そして相変わらず剣技を磨いていた島津義弘を見つけたのである。
「茶でも飲まんか?それとも酒か?軍神どんは酒も強か。おんしもいける口か?」
「今の私は謙信様の使いじゃない。訳あって、毛利の文を届けにきた。」
すっ、と文を差し出す。
「毛利どん?訳あり…じゃけんね。よか!言わんでよか。おいはそんな事気にせん。」
文を読む島津。あらかじめ元就に返事をもらうよう言われているので、かすがはその場で待つばかり。
「…ふむ。確かに読み申した。すまんが、返事ば届けてくれんか?」
「あぁ。筆と紙は―――」
「いらんいらん。返事は『満月に、肴を頼み申す』。おいの返事は言い申した。」
「満月に、肴を頼み申す?」
「毛利どんなら大丈夫ばい。」
島津は豪快に笑っている。かすがはもう一度口内で返事を反復すると、帰ろうと背を向けた。
「待ちんしゃい。軍神どんは元気か?」
「―――あぁ。元気でいらっしゃる。今は風来坊と一緒にいる。」
「よかよか。―――少しだけ、やらんか?」