指先でとける

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夏休み、私にとっては初めてのことだらけだった2ヶ月強。13日目にして、私は体調を崩した。

「ミレイ、薬ここに置いておくから、ちゃんと飲んでね?」

「あらあら、ニコラったらすっかりお姉ちゃんね。大丈夫よ、私がついてるから。ほら、ミレイの手ばかり握ってないで、そろそろ行かないと遅刻しちゃうわよ?」

「げっ!ミレイ、しっかり寝てるのよ。おばあちゃん、何か必要な物があったら言ってね!帰りに買ってくるから。じゃあ行ってきます!」

「はい、行ってらっしゃい。気を付けてね。」

「…行ってらっしゃい。」

熱なんて出したのは本当に久しぶりだった。このときの私は“今まで”を思い出してすごく心細かった。ニコラも心配してくれるし、おばあちゃんは隣に座って額のタオルを替えてくれていた。

だけど、違ったから。

熱はどう?って聞いといて体温計見る前におでこをくっ付けて確認するお母さんも、風邪うつるよって言っても笑ながら私の布団に入ってくる兄弟も、仕事帰りにアイスを買ってきてくれるお父さんも、大丈夫?ってメールしてくれる友達も、いない。それに最近ずっと考えていることがあって、それらが全部一遍に押し寄せてきて、すごく泣きたくなった。

「もっと言葉にしていいのよ、ミレイ?あんまり思い詰めても自分がキツイだけでしょう?」

そう言って眉尾を下げて笑うおばあちゃんに、体がだるいのも忘れて、泣きながら少しずつ気持ちを吐き出した。

おばあちゃんとニコラを大切に思っていること、感謝していること、でもそれとは別に家族や友達がいなくて寂しいこと。この世界が本の世界で、もし本の登場人物と関わることになったらどうしよう、その人たちを登場人物ではなく人として見れるだろうか、本の内容と何か変わってしまったら?
二時創作の見過ぎかもしれない。でも、怖い。この世界が怖い。寂しい。帰りたい。

「ごめんなさい、ごめんなさい…。」

口を衝くのは、優しいこの人達への謝罪。そのとき、やんわりと私の手が握られた。

「謝ることなんてどこにもないわよ。ミレイ、あなたが思うことは当然のことなんだから。身近にいた家族や友人がいなくて寂しい、本の世界にきて、それに関係することが怖い。そう思って何が悪いの?きっと私がミレイと同じ歳で同じ状況になっても、同じことを思うわ。

「でも、」

「ミレイ、あなたは、その本が好きだったの?」

私の言葉を遮ったおばあちゃんの目は、なぜか楽しそうだった。

「う、うん。小学校のときからすごく好きだった。」

「なら、そんなに色々考えてたらもったいないわ。こんな経験滅多にできることじゃないんだから、楽しまなくちゃ損よ?ねぇミレイ、私はその本に出てた?」

「えっと、出てなかった…。ニコラも。」

「あらあら、だったらそれこそ楽しまなくちゃ。」

「…なんで?」

「あのね、私アルバスとはとーっても仲がいいのよ?それにニコラはあれでもとても有名なの。なのに、本に出てないなんておかしいでしょう?」

“だからきっと、ここはその本の世界ととーっても良く似た別の世界かもしれないわ”

そうしたら今のミレイみたいに難しいこと考えずに楽しめるでしょう?と、おばあちゃんは言った。そのとき私は泣き笑いで、しばらくしてから眠ってしまった。目が覚めたとき、おばあちゃんと言うと、おばあちゃんはとても嬉しそうに笑ってくれた。

このときはまだおばあちゃんのことをオーレリアさんって呼んでいた。

気がつけば私はリリーのこともリーマスのことも深く考えることなく、眠りについた。


【笑顔が綻んだのは、誰?】
(2011/10/10)

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