指先でとける
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自分で言って、それを理解するまでに少し時間が掛かった。言葉の意味を理解してちょっと感動してしまって、デスクの上でキラリと光るプレートと男の人を何度も私の目は往復した。
「うわぁ……同じ名前…」
「そう言えば自己紹介がまだじゃったのう。今読んでくれたように、わしはアルバス・ダンブルドアじゃ。」
いやはや、こういう偶然ってあるんだと心底思った。綴りとか分からないけど、発音が同じだけでもすごいと思う。
しかしそこで、ふと思い出した。確かこの人は学校の校長だと言った事を。気付いてしまえば思考に歯止めなんてかかるはずもなく、一つの仮定が導かれる頃には感動なんてなく、うるさいぐらいに自分が脈打っていた。
「あのここ、校長室であなたは校長先生なんですよね?」
「そうじゃよ。」
「よろしければ、学校名とか、教えてもらえませんか?」
心臓はうるさくて、いつの間にか握り締めていた掌は爪は食い込み、汗ばんでる。
「かまわんよ、ホグワーツという学校じゃ。」
「正式名称は?」
「はて?正式な名称じゃが。」
「ホグワーツ、魔法魔術学校じゃないんですか?」
何かの宣告を待つかのように、じっとブルーの瞳を見つめれば緩やかにその目は細められた。
「正解じゃ。しかしその割りには泣きそうな顔をして、理由があるんじゃな?」
言い終わらないうちに視線は落ちて、頭の中にはどうしよう、どうしようと呪文のように反復していた。
*****
あれからいつの間にか泣きだしてしまっていて。何を言われてもただ泣くだけの私に、ダンブルドア……先生は小さい子をあやすように頭を撫でてくれた。
「も……だいじょ、ぶです。」
泣き止んでしばらくしてからそう伝えれば、頭の上にあった重みがなくなって少し名残惜しかった。
「すみません、急に泣いたりして……。」
「かまわんよ。」
そういって、優しそうに微笑まれ、頑張らなきゃって自分で伝えなきゃって思った。
「あの、私一ノ瀬美澪、じゃなかった、ミレイ・イチノセって言います。えっと、日本の女子校に通う高校3年生で17歳で今年18になります。それから、」
何度も言い間違ったり、噛んだりしたし、自分でもグダグダだなって思うような内容だったけど、話さなきゃって思ったことは何とか話せた。
自己紹介、もう一回事故の経緯、泣いた理由、大好きな本の事、私の仮定とか。さすがに本の事は話したら長くもなるし言いにくかったから、魔法使いの少年が頑張る話としか言わなかった。
だけど、なかなか言葉に出来なくて凄く時間がかかったし、喉も凄くからっからで何度もハーブティーをお代わりした。伝わったかは、分からないけど。
「信じられないかもしれないです。私も信じられないし、よく分かんないです。でも、嘘じゃないんです……。」
「嘘じゃとは思っておらんよ。ミレイのいたところに魔法使いはいたかね?」
「え……っと、いません。」
「もしいたらどう思う?」
「たぶん、ありえないって思うと思います。」
するとダンブルドアは満足そうに頷いた。
「そうじゃな。じゃが、今現在君の前ではそのありえない事が起こっている。となるとじゃ、ありえないという事はありえないのだよ。」
そして、何事にも可能性があるのじゃ、と言った。
【それは喜びに程遠い】
2011/05/05