黒翼の扉(短編小説)

□蜜。
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「…キモイ…どうして俺がこんな事…!」


ジリジリと照りつける太陽の下、群がるワームをやけくそのようにファイアの乱打で一掃するジェネシス。 

炎系の魔法を得意とする彼だが、実は暑さに弱い。
こんな場所からは早急に退散したかった。


「大体、もう秋だというのにこの暑さは何なんだ…!」


今日は機嫌の方も、すこぶる悪い。 

本来ならジェネシスが出るほどの任務では無いのだが、今回はクラス3rdに入った新人部下の実戦訓練も兼ねていた。

もともと集団行動が苦手なジェネシス。

まして新人部下の教育を兼ねた任務など、面倒以外の何物でもない。

ラザードの奴、何の嫌がらせだろう。


とにかく実戦あるのみ、と初めのうちは高見の見物を決め込んでいたものの、あっという間に新人どもはワームの糸でストップ状態。 

攻撃され放題になってしまったのだった。 


「なっ…何故…」


“ワームの吐き出す糸は要注意”基本中の基本、基礎の基礎じゃないか!

それなのに、ものの見事に全員ストップ状態…。 
情けなくて言葉も出ない。
なんだか激しい頭痛がしてきた。 


ここで死なせる訳にもいかないので、結局ジェネシスが始末をつける事になってしまったのだった。 

あまりの情けなさに、任務完了後ストップを解いてやる気にもなれず。

固まったままの新人どもの首根っこを掴み、次々とヘリの中に投げ入れ連れ帰ってきた。









「ハァ〜〜〜ッ…」 


疲労困憊の溜め息を吐きながらブリーフィングルームに戻るジェネシス。 

中では子犬が嬉しそうにセフィロスに話し掛けていた。

「マジ?俺、少しは使えるようになった?」

「調子に乗り過ぎだ…以前よりはマシになったと言っただけだ。」


そう言いながら、子犬の髪をクシャクシャとやる。

たまにはセフィロスに鍛えてもらえと、アンジールたっての要望で今日は一緒の任務だと言っていた。 

きっと滞りなく成功したのだろう。

だからと言ってイチャイチャし過ぎだ!ハートが飛んで見えるぞ?(注:あくまでもジェネシスビジョン。)

自分に気付きもしない二人にイライラと視線を送る。


「俺、アンジールに報告してくる!じゃぁなっ!」


そう言うと入り口に立っていたこちらに向かって来る。 


「おっ!ジェネシスお帰り〜!」


無邪気に声を掛け、出て行こうとする子犬。 

その楽しげな笑顔にますますイラッときて、思わず足を引っ掛けてしまう。

見事に床に転げる子犬。


「…ってェ〜。何すんだよジェネシス!」


肘をさすりながら噛み付いてくるが、超不機嫌をベッタリ顔に貼りつけたジェネシスにキツく睨まれ、ウッと息を飲む。 

明らかに八つ当たりなのは分かっているが、こういうジェネシスに逆らうと後々が厄介なのだ。 

後退りしながらベ〜ッと舌を出し、その場を走り去るザックス。



「随分とご機嫌ナナメだな?ジェネシス。」


振り向くとデスクに軽く腰掛け、セフィロスがニヤニヤと含み笑いをしていた。 


「別に…っ。」


フイとそっぽを向く。 


「まぁ、そう拗ねるな。……おいで。」


ジェネシスの態度を全く気にした風もなく、両腕を広げてみせる。 

自分の不機嫌も八つ当たりも、どうせこの男には通用しない。

おとなしくその腕に身体を預けた。 

途端、ヒヤリと心地いい冷気が全身を包む。 

セフィロスはこういう冷気の使い方をするのが上手かった。

あまりの心地よさに小さく吐息を洩らし、甘えたように脱力する。


「今日の任務は随分と苦労したらしいな…?」


からかうように言われた。

どうやら“新人全員ストップ事件”は、すでに耳に入っているようで。 


「慌てるお前を見てみたかった。」


確かに自分の事でなければ、かなり笑えるネタだ。


「俺に新人教育は無理。お前やアンジールがやればいいんだ。」 


ムッとしながら溜め息まじりに言い放つと、クスクスと楽しげに肩を揺らすセフィロス。 


「それに嫌いな暑さで汗も随分かいたようだ…。まだ滴れているぞ?」


そう言うと、いきなりジェネシスのうなじを伝う汗に舌を這わせる。 


「なっ…?バ…カ!やめろっ!汗、汚いからっ…」 


腕の中でジタバタするのを押さえ、更に首筋をネロリ…と舐め上げた。


「分かっていないな…。お前の汗は蜜より甘い…。」 


さっきまでの口調とは打って変わって、低く響く声音に艶が含まれてる。


「お前の甘い蜜の匂いは新人どもにはさぞ刺激が強かっただろうさ。任務に集中できなくても責めてやるな…。」 


そう言いながらも舌の動きは止まらず、ゾロリと耳の辺りを這いまわる。 


「な…にをバカな…事…言って…!」 


ゾクゾクと全身が痺れ、膝から崩れ落ちそうになるのを何とかこらえ、反論する。


「本当の事だ。…味わえるのは俺だけだがな?」


囁きながら耳の中に舌を差し込まれ、耐え切れず身体の力が一気に抜けた。

セフィロスの両腕にしっかり抱き止められ、甘く唇を重ねられる。 



セフィロス…

お前の存在こそが甘い蜜。

そのむせ返るほどの甘い匂いに絡め捕られ。

俺はここから一歩も動けなくなる。 

その蜜に溺れて死ぬならそれもいい。



だからもっと…。 
   甘やかして…。

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