黒翼の扉(短編小説)
□君の帰る場所
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“…コン…コン…”
真夜中にドアをノックする音で目覚めたジェネシス。
こんな非常識な時間に部屋を訪ねてくる人間は一人しかいない。
小さくため息をついてドアを開けた。
「一体何時だと……!」
次の瞬間、いきなり倒れこむように入って来たセフィロスに抱きしめられ、息を呑む。
「………寒い。」
ボソリと呟く。
今日は一日中蒸し暑く、夜になっても気温は下がらず、寒いわけがない。
なのに、セフィロスの手は本当に冷たくなっていて。
いつもと様子が違うのに気付き、とりあえずソファに座らせた。
コートを脱がせ、肩にブランケットを掛けてやる。
身体が暖まるようにと、ホットワインを入れたマグカップを手渡した。
その間中セフィロスは、ただ無言で俯いたまま、瞳は昏く虚ろな色を宿していた。
「社長からの任務か…?」
静かに問い掛けると、指先がピクリと反応を示す。 だかそれを言葉にするつもりは無いらしく、口は閉ざしたまま。
ジェネシスもそれ以上問う事はしなかった。
英雄とはいえ、所詮ソルジャーは雇われの身。
神羅カンパニーという組織の命令には従わねばならないのだ。
たとえそれが、己の意思に反するものだったとしても。
プレジデント神羅は、欲と金と権力に溺れた人間だ。
自分の地位を守るためなら、弱者からの搾取、反抗する町の破壊、殺戮等どんな汚い事でも平然とやってのける。
そしてその任務を我々ソルジャーに押しつけてくるから、たまったものではない。
しかも失敗は許されないため、結局1stが駆り出される。
その中でも社長の気に入りで、一般人にイメージの良い“英雄”にいつも任務が回されてくる事が多く。
そんな非道な任務の後に、セフィロスはこういう状態になるのだ。
「…寒い…ジェネシス…」
またボソリと呟く。
ジェネシスは何も言わず、その冷えきった手をそっと両手で包み込む。
その氷のような指先。
心が凍えるから、身体も温度を失っていくのだ。
冷酷そうに見えてその実、誰よりも優しい男。
それを手酷く傷つける、プレジデント神羅や組織が許せなくなりそうな自分がいた。
その全てのものから守り、温められたら…。
そんな想いで胸がいっぱいになる。
「お前の手は温かいな…」
そう言って、ジェネシスの膝に頭を乗せてきた。
「少し…疲れた…な。」
そのまま静かに瞼を閉じる。
「俺は…少しはお前の救いになっているか?」
優しく銀の髪を撫でながらジェネシスが尋ねた。
「お前しか俺を救えない…これからも…この手で俺を温めてくれ…」
セフィロスはその手を取り、自分の頬に触れさせながら答える。
「もしお前がいなければ、俺は何も感じない機械のようになっていたかもしれないな…。」
遠くを見つめながらそう洩らした。
痛みから自分を守るため、心を固く閉ざし、ただ漠然と人形のように生きていただろう。
「ジェネシス…お前の存在が、俺を人間として生かしてくれる。」
それを聞いて。
「ここにいる。側にいるから…」
そう微笑み。
「だから…どんな時でも必ず俺のもとに帰ってきてくれ…。」
ジェネシスは祈るように言葉にした。
この孤独な男が。
神羅に育てられ、神羅に道具のように使われる、この寂しい男が。
凍える身体を抱え、一人震える事の無いように。
必ず俺が側に寄り添い、温めてあげるから。
俺がお前の帰る場所になるから。
「約束する…。」
そう囁くとセフィロスは、手を握ったまま、安心したようにまた瞳を閉じた。
「お前がこんなだと、調子が狂うじゃないか。」
眠ってしまったセフィロスの髪を梳きながら、独り言を洩らす。
その寝顔を見つめる瞳は、慈しむような優しさをたたえていた。
おわり