黒翼の扉(短編小説)

□叶えてアゲル。
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1st専用ラウンジで一人、紅茶を飲みながら考え事をしているジェネシス。 

彼にしては珍しく、雑誌のバカンス特集のページに熱心に見入っていた。 


『旅行…行ってみたい…』
そんな事を考えながら。 


少し前になるが、親友と子犬がコスタにバカンスに行っていた。

帰ってきた二人の様子を見ると、とても楽しかったらしい。

そんなに楽しいものなら、自分も行ってみたいじゃないか。


だが問題は場所だ。


“コスタデルソル南国リゾート〜青い海、白い砂浜があなたを待っています!”

『コスタ……。無いな…。水着着て?……あり得ない…。』 

自分とセフィロスが、水着で砂浜にいる姿を想像し、危うく紅茶を吹き出しそうになる。
違和感ありすぎだろ…。


“アイスクルロッジ〜一年中ウインタースポーツが楽しめます!”

『アイスクルロッジ……寒いのキライ…』 

太陽ギラギラのコスタよりはマシだが、スキーやボードというキャラでもない。 


もっと雰囲気のいい場所はないものか…。 



「何をそんなに真剣に見ているんだ?」

声を掛けながら、セフィロスが隣に座る。 
顔を合わせるのは数日ぶりだった。

「今、帰ったのか?」

「ああ。」

そんな他愛ない会話を交わしながら、テーブルの上にゴトリと何かを乗せる。 

「お前にみやげだ。」

それは透明の小さな保冷ポット。中には氷の塊が入っている。

「…何だ?」

よく見ると、氷の中には蒼銀色の薔薇が輝いていた。

「セフィ……ッ、これ…」


それは、雪原にそびえる崖の上にのみ生息しているとされる、幻の薔薇。

とても危険な場所のため、一般人は足を踏み入れられない場所。
ゆえに幻と言われている。


「氷点下じゃないと枯れてしまうらしいからな。氷漬けにした。」

と飄々とした口調。 


「今回の任務の場所が近かったから、ついでに採ってきた。……見てみたかったんだろう…?」

と静かに微笑む。

いつだったかジェネシスが一度だけ、『見てみたいな』と独り言のように口にした事があった。


この男は、その何気ない一言を憶えていたのだ。 

「…あ……。」

いくらセフィロスとはいえ、この一輪を見つけるのに苦労しなかった訳がない。 

なのにそれを事もなげに“ついで”と言ってのける。 


それがジェネシスの胸を切なく痛いくらいに熱くした。 
たまらない気持ち。

セフィロスを押し倒して馬乗りになり、噛み付くようなキスをして。 

「…あれは…色が……お前の瞳の色に似ているような気がして…欲しかったんだ…。」

つい本音が口をつく。 

「今日は随分素直だな?」

と優しく頬を撫でれば。 

「お前がこんな事するから…。」

耳まで赤くり、心なしか潤んだ瞳で見つめた。

そんなジェネシスの手をとり、何度も口づけながら静かに言った。


「こうしてお前に触れられるなら、俺は何でも叶えてやるさ…。」

そう微笑むこの男の美しさに目が離せなくなる。 

「さぁ…、次の望みを言ってみろ…。」

全て叶えてやる、と。
俺はお前のものだ、と。
雄弁に語る蒼銀の瞳に、映し出される自分の顔。


これは俺の男。
これが俺の男。 
全てが俺のモノ。 


独占欲と情欲が交ざり合い、突然全身を支配する。

背筋から指の先までピリピリと痺れてきて。 


「今すぐお前が欲しい…」

ペロリと唇をなめる。

承知したとばかりにジェネシスを抱き上げ、すぐ隣の仮眠室へ…。




旅行の話は、後日にしよう。 


今はただ、この男を全身で味わいたいから…。




        おわり

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