黒翼の扉(短編小説)
□本気が知りたい。
1ページ/1ページ
「出て行けっっ!!」
叫んだかと思うと、いきなりファイアを放たれて。
それを片手で受け止めながら、セフィロスが近づく。
続けざまにサンダー。
それもあっさり防がれ。
あっという間に、ジェネシスの目の前に立った。
今度は平手打ちをしようとしたが、その手も掴まれてしまう。
そのまま強く腰を引き寄せ、強引に唇を奪われ。
それでも抵抗して、唇に噛み付いてやれば。
小さな舌打ちと共に、顔が離された。
その隙に、もう片方の手で頬を思いきり叩いてやる。クリーンヒット。
憮然とした表情をするが、セフィロスは決して手は出さない。
「何故そこまで怒るのかがわからない。」
その一言に、怒りが頂点に達する。
「何故?何故だと!?それがわからないお前の、その無神経さに、ますます腹が立つっ!!」
顔を紅潮させ、感情の高ぶりのせいで、瞳は紅く涙がうっすらと浮かんで。
顎を掴まれ、蒼銀の瞳で顔をじっと覗き込まれる。 うっすらと血の滲む薄い唇が、軽くつり上がり、ニヤリと笑ったかと思うと。
「何だ?嫉妬しているように聞こえたが?」
その一言に、怒りを通り越して血の気が引いた。
顔面に直接ファイアをぶち込んでやろうとした所で、様子を見に来たアンジールに腕を掴まれ、方向転換されてしまった。
「あっ…!」
気付いた時には、向きを変えたファイアがアンジールを掠め、所々髪の毛先を焦がしていた。
眉間の皺を深くし、額にはピクピクと青筋をたてて。
「お前達いい加減にしろ!ここは室内だぞ!!」
とばっちりを受けたアンジールに、すごい剣幕で怒られ、二人共気まずそうな表情をする。
多分、ザックスと楽しくイチャついている所を邪魔してしまったのだろう。
全身で機嫌の悪さをアピールしている。
「喧嘩の理由は、想像がつく。セフィロス、お前が全面的に悪い!」
「ジェネシス、お前もその癇癪を何とかしろ!」
「とにかく、頭を冷やして冷静に話し合ってくれ!」
息もつかない勢いで、これだけ言い放ち、くるりと回れ右して出て行った。
アンジール、見事な大岡裁き。
拍子抜けしたように、ジェネシスがソファにドカリと倒れ込むように座る。
その上に、被いかぶさるようにセフィロスが腕をつき、ジェネシスの頬を軽く撫でながら一言。
「済まなかった。」
「それ、わかって言ってるのか?」
と呆れたように返せば。
「………。」無言。
ハァーッとため息が出る。
「男女問わず、あちこち食い散らかすクセは止められないのか?」
と今度はストレートに問い掛ければ。
「………。」また無言。
「止められないなら、二度と俺に触るな…。その他大勢にされる程、俺は安くない…。」
諦め顔でそう告げる。
自分だけが本気になるなど耐えられない。
辛い思いは、もう御免だ。
「お前が思っているより…俺はお前がっ………止そう…。」
言い掛けてやめた。
言葉にした所で何になる。
それを見てセフィロスが口を開く。
「いいのか?」
「何が…?」
「俺は今もこれからも、お前だけが大切だ。心ならとうにお前だけのものだ。それはわかっているか?」
「………。」
「これでも加減していたんだ…。身体までお前だけになってもいいのかと聞いている。」
そこまで言われて。
「…俺は欲張りなんだ。」
とジェネシスが答えた。
「こう見えて、俺は相当重いぞ?その重みで、いつかお前を壊してしまうかもしれない。…それが怖い。」
そう呟くセフィロスの表情は真剣そのもので。
ジェネシスは、自分がどれ程この一言を待ち望んでいたか知った。
「俺はそんなにヤワじゃない。身も心も全部…爪の先まで全部。お前が欲しいんだ…。」
今まで言えなかった言葉を口にする。
それを聞いたセフィロスが、息も止まるほどにきつくジェネシスを抱き締め、囁いた。
「俺の全てをくれてやる。全てお前のものだ。…魂ごと持っていけ。」
それは祈りのようであり、誓いの言葉のようでもあった。
ジェネシスはそれに答えるように、静かに瞳を閉じる。
今、この瞬間を永遠に繋ぎ止めておけたならと願いながら…。
おわり