黒翼の扉(短編小説)

□あれから10年も
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『無口でお高そうな奴。』
初めの彼の印象は最悪だった。 
まだ10代中頃の話。



俺がソルジャーになりたての時、同年代の彼はすでに1stとして第一線で活躍していた。 

周囲もどうやら特別扱いしているようで。


彼自身はそれを全く気に掛けていない風で、その余裕が益々俺をイラつかせた。


「セフィロスって、いつも一人でいるよな。寂しくないのかなぁ。」

一緒に昼食をとっていたアンジールが言う。 

「1st様は、俺達なんかとは口もききたくないんだろ。」
不機嫌そうに返す。

「そういう感じには見えないんだよなぁ…。」

なんの気なしに交された、この会話のせいで、気付けば彼を観察するようになっていた。

なるほど。友達と呼べるような人間はいないようだ。 
トレーニングも食事も休憩も、見るといつも一人。 

「寂しい奴…。」
そう言いながらも、益々目が離せなくなって。 


ある日、いつものように窓際の席で一人、食事をとる彼の姿があった。

色素の薄い肌と、肩まである銀の髪がキラキラと陽に透けて、このまま消えてしまうのではないかと、凝視してしまう。  


何にも執着の無さそうな、この男の視線を自分に向けさせてみたい。
初めは、こんな好奇心からだった。 


「ここ、いい?」

突然声を掛けてきた事に驚いた様子のセフィロスが、無言で頷く。 

それを確認して、向かい側の席に座った。

特に何を話すでもなく、黙々とスプーンを口に運ぶ俺を不思議そうな顔で見つめている。
うざいとか、嫌がるではなく、ただ本当に“?”という表情。

その様子が可笑しくて、ついクスクスと笑ってしまった。 

普通ならいきなり笑われたら、怒りだしそうなものなのに、彼は益々“??”という表情になっただけ。 

「なんか、お高くとまって、冷たいイメージだったけど、実際はそういう感じじゃないんだな。」

ついうっかり言葉にしてしまった。 

セフィロスは目を丸くして俺の顔をジッと見ていたが、初めて口を開いた。 

「……俺、周りにはそう見えているのか?」

これには正直、え〜っ?と思った。 
気付いていなかったの? 

「そうか…。それで皆、俺を避けているのか…。」

素直に納得する姿がまた可笑しくて。
あんなに嫌いだったこの男が、一気に好きになってしまった。



それからというもの、俺は暇さえあれば、セフィロスを構うようになっていた。 

知れば知る程わかる、この男の孤独さ。


幼い頃からソルジャーとしての訓練に明け暮れていたからか、全くの世間知らずで。 

研究員らに育てられたために、人の愛情を知らず、甘える事も知らず。

同年代の子供もいなかったので、友達の意味も知らない。

実戦に参加するようになってからは、他の追随を許さない、ずば抜けた戦闘力であっという間に1stに大抜擢。 

そんな生い立ちのせいで、他人に興味が無く人間味の薄い、近寄りがたいイメージが定着していた。


そうなるともう、彼の風貌も相まって、周囲の羨望や嫉妬の恰好の的で。


なんだか不憫にさえ思えてくる。 



それでも、俺が声を掛けるようになってからは、彼の雰囲気も柔らかくなったようで。 

これで多少は、周囲とも馴染めるようになるだろう、と思った。 

が、ジェネシスは気付いていなかった。 
彼自身もまた、人を寄せ付けないオーラを放っている事に。 

周囲にしてみれば、それが二人に増えただけ。 

結局、アンジールがたまに話しかけてくるのみで。


ジェネシスはいつの間にか、セフィロスの側にいるのは自分だけ、という事に優越感をおぼえていた。




それから程なく、アンジールとジェネシス二人が1stに昇格。今に至る。 




「あの頃は、まさかお前に乗られる日が来ようとは、思いもしなかった…。」

セフィロスの腕の中で、ため息まじりに呟いた。 

「あんなに素直でかわいかったのに。こんなになっちゃって…。」


「…。俺は初めて声を掛けられた時から、お前に乗る気満々だったぞ?」

ニヤニヤとからかうように言われて。

「興味津々な顔で、近付いてきたお前が可愛いくて。気に入ったから、側にいる事を許していたんだ。」

と追い討ちの言葉。

「お前以外の奴なら、即刻退場願っていたさ。」


「えっ!?」

「押し倒す機会をいつも伺っていたしな。触りたくて仕方なかった。」


いやいや、ちょっと待て。
確かに、今やすっかり絶倫エロ魔神だが。
あの頃から、そんなんだったの?


「さ…詐欺だ…。」


あの頃は、自分より子供だと思っていたのに…。 


「なんかショック…。俺の美しい思い出を返せっ。」

くるりと背を向け、拗ねるジェネシス。

そんな仕草はこの男を喜ばせるだけで。

「あの頃からお前だけは大事にしてきただろう?」 

優しく耳元に囁かれて。 

「ずっとお前だけだ。その事に何の不満がある…?」

ゾクリと背中が痺れる。 

確かにその通り。 
気付いていた。
声をかけた時から、この男の瞳に映るのは自分だけだという事に。

それが何を意味するかは、あの頃はわかっていなかったが。 

なんだか急に恥ずかしくなって。赤面してしまう。 

顔は隠したが、白い背中がほんのり桃色に染まって。セフィロスにはばればれ。

その背中を優しく抱き締める。 

「これからもずっと、一緒にいてくれ…。」

その言葉に、素直にジェネシスは頷いた。 
今更離れられる訳もない。 



そう。あれから10年。 
これから10年も。 

ずっと、ずっと一緒に。 




         おわり

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