白翼の扉(短編小説)

□その、手。
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「今日の夕焼けは綺麗だな…。」

ちょっとした私用で、一緒に街に出た帰り道。

見上げた空の、見事な茜色に目を奪われて、アンジールが呟く。 

「本当だな〜。俺も今、同じ事考えてた!」

嬉しそうに、満面の笑みで答えるザックス。 

二人で過ごす、この静かで穏やかな時間。 

こうやって一緒に歩いてるだけで、満たされた気持ちになれる。 

どちらからともなく、歩く歩調も緩やかになって…。

少しでも長く、こうしていたいと願いながら。

「アンジール、…手、つないでいい?」

空を見上げるアンジールの横顔に、胸が熱くなり、今すぐ甘えたくなって。


何も言わず、微笑みながらザックスに手を差し伸べてくれた。 


ザックスの手を包み込む、アンジールの大きな手。 
守ってくれる。頭を撫でてくれる。優しく頬に触れてくれる。そして、案外器用だったりする…。 

大好きな、大好きな手。


そっとつないだ、その手、その温もり…。

触れ合った手のひらから、アンジールの全てが流れ込んできて、身体の中で溶け合っていくような、不思議な感覚。 

その痺れるような、甘い感覚に、足の力が抜ける。 
「な…んだ、コレ…。」 
カクン、とその場に力なく膝をついてしまった、自分の身体に驚いた。


「…アンジールの手、すき。何か気持ちよくて…俺、力抜けちゃったよ。」


一人納得するザックスを抱き起こし、つないた手にキスを落としながら、愛しげに呟いた。 


「お前の手には、かなわないさ…。」


そう。俺に愛しさを教えてくれる、この手には…。



      おわり

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