再会の扉(長編小説)

□この再会を君に捧ぐ。
1ページ/2ページ




…底の無い暗闇。 

自分が今、目を開けているのか、閉じているのかさえ分からない程の闇。 



これが死? 

なんかもっとこう、お花畑とか、白い雲の上とか、そういうのじゃないの?


そんな事をのんきに考えるザックス。



「お〜い。アンジール〜」

とりあえず呼んでみる。

だがその声は、虚しく闇に吸い込まれていった。


急に心細くなり、今度は思いきり叫んでみる。

「アンジールってばぁ!!」

その声も闇の中。 

そんな時、ふわりと小さな小さな碧白い光が現れた。 

それは、いつかアンジールと一緒にウータイで見た、蛍のような光だった。


ふわりふわり。 


ザックスの周りを数回まわり、ゆっくりと飛び去る。

「あっ…待って…!」


あわてて後を追う。 

しばらく行くと、小さかった光は徐々に大きくなり、やがて目が開けられない程の大きな光になった。






「……う…っ。」 

ようやく光が収まり、恐る恐る瞼を開く。 


「え…、ここ…どこ…?」

目の前には見知らぬ天井。夕暮れ時らしく、部屋の中は薄暗かった。 


状況が全く理解できない。

とりあえず起き上がろうとして、全身に痛みが走る。


『え?痛み…?俺、生きてるの…か?』 

傷は良くなっているようだが、まだ起き上がれる状態ではないらしい。


信じられない。 
でも感じる鼓動は、間違いなく自分の心臓のもので。

今自分が、どういう状況に置かれているかは分からないが。
とりあえず前回のように、人体実験に使われた訳ではなさそうだ。


『これでまたアンジールに会えなくなったな…。』


ふぅ、と小さくため息。




そこへ静かにドアの開く音がして、誰かが部屋へ入ってくる気配。 


ザックスは警戒と緊張で身体を強ばらせる。 


静かに近寄り、様子を見ようと顔を覗き込むその人と目が合った。 



「……………っ!!!」



心臓が跳ね上がる。

あまりの衝撃に、目を見開き、声も出ない。 


その人は意識を取り戻したザックスを見て、安心したように微笑み、ほぅと息をつき囁いた。 


「気が付いて良かった…」


懐かしい、この声。 
懐かしい、この微笑み。

会いたくて、会いたくて、会いたくて、会いたくて。


ずっと求め続けて。

一時だって、忘れた事などなかった。

大好きで愛しいヒト。




未だ信じられなくて、呆然とするザックス。 


「…ア…ンジ…ル?」

ようやく絞り出した声は震えていた。 


「…ああ。」

「ほ……んと…に…?」

「ああ、本当だ。」

そう言うと、少し困ったよう笑った、その笑顔。 

「信じられないだろうが、俺もお前も生きている。」

そっとザックスの頬に触れる温かい手。

ああ、このぬくもり…。 でも。


言葉が出ない。 
涙も出ない。
だってまだ信じられない。


こんな夢なら何度も見た。今回は現実だと、誰が言い切れる?


あまりの衝撃に息が上がり、興奮状態のザックスを見て、アンジールがなだめるように頭を撫でた。 


「大丈夫…。大丈夫だよザックス…。傷に障るから、今日はもう寝ろ…。」


そう言って額にキスをし、少し落ち着いたのを見計らって部屋を出ようとする。 



「待って…!」

必死にその手を掴んだ。 

驚いたように振り向くアンジール。


「お…お願い…ここにいて……一緒に……」


縋るような瞳で見つめられて。 


「…なんだ…甘ったれは治ってないな?」

とからかってやると。 


「だ…だって、まだ信じられない…。何度も何度も…こんな夢を見たんだ…。」

掴む手が震えている。 

「目が覚めるたび辛かった…何度も何度も繰り返し…あんなのはもう…」

今回も夢かもしれない。 朝目覚めれば、また一人かもしれない。 

それが何より恐い。 


そう言うと、堰を切ったようにボロボロと、大粒の涙がとめどなく溢れ出した。


掴んだ手を放すまいとするその、痛々しいまでに必死な姿がアンジールの胸を容赦無く突き刺した。 


ザックスをここまで深く傷付け、追い詰めてしまった自分の身勝手さ、愚かさ。 

それを今、まざまざと見せつけられて。 



「もう、お前を置いてはいかない…。」

そう言って安心させるために添い寝をする。 


その胸にしがみ付き、存在を確認するように何度も顔をすり寄せる。

触れて、匂いをかいで、体温を確かめて。

トクントクンと規則正しく脈うつ心音に耳をすます。


そんなザックスを傷が痛まないようにそっと抱き締める。

優しく髪を撫で、何度も額にキスを落とし、唇で涙を拭った。
 


どれ程の間、そうしていただろう。 

やっと安心したように、腕の中で静かに寝息をたてはじめる愛しい姿。


その寝顔をじっと見つめ、頬をそっと撫でる。 



「おやすみザックス…」



再びこの腕に取り戻した温もりに感謝しながら。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ