再会の扉(長編小説)

□光は音も無く堕ち、響くは闇の咆哮。
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神羅屋敷の地下施設。 

莫大な量の資料をセフィロスは次々と読みあさっていた。

あの日の、あの言葉が深く胸に突き刺さったまま。


パラパラとページを捲る手は、止まる事なく。
ついに、己の真実にたどり着いた。




ジェネシスの言葉が、再び頭の中に甦る。


『あまたの失敗を踏み台に、作り出された完璧なるモンスター』


認めたくない。何もかも。

 
それでも。

『セフィロス、力を貸してくれ。』
と。お前が求めたから。


『俺に何ができる』
それに応じようと、尋ねれば。


『お前の細胞を分けてくれ…。』

それを聞いた瞬間、俺の中で何かが壊れた。


『朽ち果てろ…!』


気付けば口にしていた悪意に満ちた言葉。

そんな言葉を言いたかった訳ではないのに…。




お前が消えた日から、ずっと思い続けていた。

どんな事があろうとも、お前を救いたいと。 

お前が望むなら、神羅を捨ててもかまわない。 

お前が望むなら、この身体の全てをくれてやる。
命さえ惜しくはない。 


お前が俺を望むなら…。


そう。

お前の口から、ただ一言。
『共にありたい』と。

『一緒に生きたい』と言ってくれさえすれば…! 




蒼の奥にゆらゆらと燃える紅を宿した瞳。 

時として見せる、あどけなさの残る表情。 
笑顔が幼子のようで。

ふわふわと揺れる柔らかなブラウンの髪。
消え入りそうな白い肌。

たまに憎まれ口をたたく生意気な薄い唇。


思慮深く見えて、単純で。
冷静に見えて、情熱的。

他人を寄せ付けないくせに、人一倍寂しがりな。

両極端な面を持ち合わせた、その不安定さ。

俺の全てを懸けて。
お前の全てを愛していた。



なのに。お前が最後に求めたものは。 
俺自身ではなく、俺の中の細胞のみだという事実。


そして知った、己の真実。


途端に足元がグラリと揺らぎ、そこに奈落へと甘く誘う、底の無い漆黒の闇が口を開ける音が聞こえた。


セフィロスは静かに資料を閉じ、ドサリと力無く椅子に腰掛ける。



天を仰ぐその、閉じた瞼から流れた、一筋の光。




「……………クッ…。………クッククククッ…!」


己を嘲るかのように、肩を揺らし静かに笑いだす。



今さら、何を嘆く事がある? 
ほんの一瞬、心を通わせた人間がいたというだけだ。

俺は幼い頃より、いつでも一人だったではないか。 

あの頃から、ただひたすら、己の能力を高めるためだけに生きていた。 

自分は特別だと。 
誰よりも優れていると。 


それが今、証明されたではないか…! 


この星の生き物よりも、遥かに優れた生命体。
俺は、その細胞を受け継いだ、唯一無二の存在。


しかし、この星にとって異物でしかない存在。 

星の命を脅かす災厄…。



それを思うと。
ソルジャーとして、人々を守るために生きてきた、今までの自分の無意味さと、滑稽さときたら…!


ジェノバの細胞を正しく受け継ぐ、唯一の存在である俺が、人助けとは!




「ハッ…。お笑い草だ。」



ああ。この喪失感。

俺は今、こんなにも独りだ…。

この星で、たった独り。


誰もいない本当の孤独。


血の気の引いた、氷のように冷たいこの指を温めてくれる者もいない。





ジェノバ…。母さん…。 

あなたも、こんなに孤独だったんだね…。



 母さん……。 
  今、迎えに行くよ…。 

この星で二人きり。

俺を抱き締めて、温めてくれるかい…?





立ち上がったセフィロスの、美しかった蒼銀の瞳には光は無く、黒く暗い闇色に染まっていた。
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