再会の扉(長編小説)

□消えない傷痕
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「ザックス、いつまで寝ているつもりだ…?」


大好きな人の声で起こされ、目を開いたザックスは、信じられない光景に声を上げた。


「アンジール!?」


失ったはずの、愛しい人のその姿。

「なんだ、朝から情けない声を出して。」

「本…当に…?生き…てる…?」

信じられない。だって、あの日アンジールは…。 


震える指で、そっと確かめるように、アンジールの頬に触れてみる。 

手のひらから伝わる、その確かな温もり。 


「どうした?怖い夢でも見たのか?」


震える身体を優しく抱き寄せ、頭を撫でるその仕草。 
間違いなくアンジールのものだった。


「こっ…怖かった…。しばらくこうしてて…?」

背中に回した指先が、白くなるくらい、きつく抱きついた。 
自然と涙が溢れ出す。


「甘ったれだな…。」

ちょっとだけ、呆れた風を装って。でも本当は愛しくて仕方がない、とでも言いたげに。 

“チュッ”

と、額にキスを落とす。 
ああ、本当にアンジールなんだ…。

「アンジール………。」


安心してザックスが顔を上げると、一瞬にして愛しい人の姿がグニャリと歪み、霧となって掻き消えた。  



「うわぁぁぁっっ!!!」 


暗闇の中、一人飛び起きたザックス。 

体中、びっしょりと汗で濡れ、顔は涙でグシャグシャになりながら。


あの日以来、何度こんな夢を見ただろう。

繰り返される悪夢に、精神は疲弊しきっていた。


「もう、ヤだ………。」

ベッドの上で膝を抱え、震えながら夜明けを待つ。




それ以来、ザックスは昼夜を問わず、任務に明け暮れた。 

通常、ソルジャーが休む暇も無いほど、任務に駆り出される事は無い。 

体が資本なので、しっかり休暇も与えられている。

ザックスはラザードに無理を言って、毎日任務に出ていたのだ。





そしてある日、とうとう倒れた。
久しぶりにツォンと一緒の任務の帰りに…。 


医務室のベッドで目が覚めたザックス。 
たまたま様子を見に来ていたセフィロスが気付き、声をかける。 

「大丈夫か?」  

「あ…、俺…?」

「疲労と睡眠不足だそうだ。ドクターの話だと、二日間眠り続けたらしい。」

淡々と話すセフィロス。

「二日も…?俺、迷惑かけちゃって…」

言いかけて、言葉を遮られる。 

「眠っていないのか?」

「……………夢…。」

「夢?」 

「怖い夢を見るから…眠りたくないんだ…。」

どんな夢か、セフィロスには想像がついた。 

セフィロス自身も、アンジールとジェネシス…親友と恋人二人を同時に失っているのだ。
ザックスの気持ちは、痛いほどわかる。

愛する者を失うには、ザックスは若過ぎた。
耐え難い痛みに、心身のバランスを崩してしまうのも、仕方のない事だった。

「俺…情けないな。」

頭をかきながら、作り笑いをする姿が痛々しくて。


「我慢するな…。」

顔を隠すようにタオルケットを頭から掛けてやり、そっと肩を抱いた。


「うっ…ううっ……。」


今までずっと、一人でその哀しみに耐えていたのだろう。

震えるザックスの口から、嗚咽が漏れる。

セフィロスは何も言わず、ただ静かに泣き止むまで側にいてくれた。 


自分もこんなに素直に泣けたら、どんなにか楽だろう…と思いながら。
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