再会の扉(長編小説)

□約束の証と、零れ堕ちる夢。
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神羅ビルに向かい、零番街ハイウェイを走るザックスの前に、白い片翼のアンジールが姿を表した。 


「…何しに来たんだよ。」

精一杯、虚勢を張ってみても、絞りだした声は震えていた。 

先日のプレート内部での出来事を思い出し、戸惑う。 



あの日、ホランダーを追い詰めたザックスの前に、剣を構えたアンジールが、立ちはだかった。 

ショックだった。 

その剣は、彼の、夢と誇りの象徴。 

それが今、俺に向けられている。

「ホランダーの…言いなりか…。」

「……。」

「ジェネシスのためか。」
諦めたように目を伏せ、力なく尋ねる。

「違う。あいつとは…すでに道を別った。」

静かだが、はっきりとした否定に、ザックスが視線を上げた。


「じゃあ、どうして…。」

真っ直ぐにザックスを見据え、アンジールが口を開いた。


「俺はモンスターになってしまった…。」

そう言うと同時に、彼の背中に白い翼が、音をたて現われた。 


驚きて、立ち尽くす。
ジェネシスの翼を目にした時から、なんとなく、予感はしていた。

今、目前に広げられた翼の、その、あまりの美しさに視線が釘付けになる。 


「天使の羽…。」

意図せず、ザックスの口をついて出た言葉に、アンジールが苦々しげに返す。 

「ならば、天使はどんな夢を見ればいいんだ!」

その悲痛な叫び。 

「アンジール!!」

気付けば、アンジールをきつく抱き締めていた。 

「どうして一人で苦しむんだよ!?俺じゃダメ?何も力になれないのか?」 

アンジールは苦悩の表情を浮かべたまま、何も答えない。

「俺にも分けてくれよ!」

手を離せば、今にも飛び立ってしまいそうで。 


しがみ付くように、ザックスが腕に力を入れる。 


アンジールは動けなかった。抱きかえしてしまえば、きっと離せなくなる、この愛しい温もり。 


いっそこのまま、時間が止まってくれたなら。 

二人抱きあったまま、結晶にでもなってしまえたら。


「俺も、…連れてって。」

呟くザックスの言葉に、我に返った。 

一番恐れていた言葉。 


次の瞬間、ザックスの身体が宙を舞う。 

ガシャーン!!


床に転げるザックス。 


「な…んで…。」


厳しい瞳で、アンジールが叫んだ。


「戦え!!」


もう表情は、ソルジャーのそれになっていた。 


「イヤだ…。」

ふるふると、頭を振りながら後ずさる。 


「なんで…?俺…わかんないよ…。」


もうこれ以上、我慢できないとばかりに、ザックスの瞳に涙が溜まっていく。 

その想いを断ち切るように、アンジールは床に渾身の一撃を放つ。 


そこからバリバリと亀裂が入り、ザックスの足元が、まるて氷が割れるように、崩れ落ちていった…。





「力を貸してくれ。」

そう声を掛けられ、時間を引き戻された。 


「どうだろ。…あんたの考えてる事、わかんない。」

必死に平静をとりもどそうと、視線をそらした。 


「正直、俺にもわからない。」

苦笑いしながら答える、アンジールのその表情は、どこかスッキリと振っ切れたようで。 


「敵は、世を苦しめる全てのものだ。」

なんて。もとのアンジールに戻ったかのようで。


しばらく躊躇したが、決心したように答える。 


「力…、貸してやる。」


そんなザックスを後ろから軽々と抱き上げ、飛び立つアンジール。 


「うわ、わっ!よせってアンジール!」

「たまに空を飛んでみるのも、いいものだぞ?」

と、腕に力を込めた。 


久しぶりに感じる、アンジールの優しいあたたかさ。

「ザックス、約束してくれ。世を苦しめるもの全てと戦うと。…たとえ相手が何であろうとも。」


その言葉に、強い意思を感じながら、ザックスが答える。


「わかった。約束する。」

「…いいコだ。」

そう言うと、ザックスの髪に軽くキスを落とした。


アンジールが何を考えているのか、まだわからないけど、いいよ。 


また一緒にいられるなら、もう何だっていい。 


彼の思惑に気付かず、素直に喜ぶザックス。


そんな逢瀬も、つかの間。

二人の影が、神羅ビルの中に消えていった。
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