再会の扉(長編小説)

□この胸に渦巻く闇の正体
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「アンジールも行ったか…。」ため息をつくように、英雄が呟いた。



ジェネシスの故郷、バノーラへ向かうヘリの中、アンジールは、その一言を思い出していた。 


「アンジールが裏切るはずはない!」

そう叫んでみても、あの場に現れたジェネシスコピーが、不安を掻き立てる。 

何故姿を消したのか。
そのほんの少し前まで一緒にいて、俺の手をとって微笑んでくれたのに…。



「着いたぞ、ザックス。」

ツォンの一言で我に返る。
プルッと頭を一振りし、両手で自分の頬を叩きながら、気合いを入れ直してザックスはヘリを降りた。 


村へ向かう途中変わった形の樹が、アーチとなって出迎えてくれた。

枝の先には、青い実がなっている。 

「バノーラホワイトだ。」
ツォンが教えてくれた。聞き覚えのある名前。


そう。前回の任務の時、アンジールが教えてくれた、自分の故郷にあるリンゴの樹。


「もしかして、ここは…」

「アンジールの故郷…。」

親友であると同時に、幼なじみでもある、と言ったツォンの一言に、ドクン、と心臓が跳ねるを感じた。 

故郷の話をする、アンジールの表情を思い出しす。


あの時話てくれた、幼なじみが、ジェネシス…。 



モヤモヤと胸の奥に、黒い霧がかかったようだ。 


初めて感じる、自分の感情に、ザックスは戸惑った。

「ザックスは、アンジールの実家を探してくれ。」 

気付けば、いつのまにか村に着いていた。 


もしかしたら、アンジールが帰っているかもしれない。
期待を胸に、家の扉を開いた。


「何か…、ご用?」


中には母親らしい一人だけだった。

アンジールがいなかった事に、肩をおとしながら、ザックスは、慌てて自己紹介をした。 


母親は一瞬かんがえて、こう話し掛けた。 

「もしかして、子犬のザックス?」

「何だ、ソレ!」

初対面なのに、つい突っ込んでしまった。

それから少しの間、母親と話をした。   


アンジールが大切にしていた剣は、この家の誇りである事。
父親が無理をして、亡くなった事など…。 


ふと近くの棚に目をやると、たくさんの写真が飾られているのに気付いた。 


その中には、ジェネシスと仲よさげに写る、子供時代の写真もあった。 


本当に、昔から一緒だったんだ…。俺なんかより、ずっとずっと長い時間…。 


さっき感じた、黒い霧が、どんどん濃くなって、塊になっていくような感覚。 


「俺、アンジールの事、何も知らなかった…。」


ザックスが小さく呟く。
それを聞いた彼女が、優しくこう囁いた。 


「じゃあ、これから知っていけばいいじゃない。」

ハッとして振り向いた。 

「あの子の手紙には、いつもあなたの事が、書いてあったのよ?」

「えっ、どういった事?」

ザックスは、ワクワクしながら尋ねた。


「そうね…。とても手のかかる子犬た。目を離すと何をしでかすかわからない。いつも詰めが甘い。あとは…。」


「愚痴ばっかかよぉ〜!」

思わず情けない声を漏らしてしまった。 


「でもね、最後には必ずこう書いてあるの。…そこが可愛い。その明るさに、いつも救われている。大切な人だ。…ってね。」 


ドキッとした。そんなハズカシイ事堂々と、しかも母親宛ての手紙に書くなんて、どうかしてるよ!


ザックスは、自分の顔が熱くなるのを感じた。 

今、俺、絶対真っ赤な顔してる…。 


そんな俺を見て、プッと吹き出しながら、彼女が言った。 

「あなたの気持ち、わかるわ。私もはじめは驚いたもの。照れもせず、自分の母親に、よくこんな事書けるなって。読んでるこっちが照れちゃったわよ?」


「本当にな〜。ビックリだよ。アンジールって、真面目なのに、すごい天然なところあるよね!」


「本当!我が息子ながら、そう思っちゃうわ〜。」


二人で顔を見合せ、大笑いしてしまった。 



「あ〜〜、こんなに笑ったの、久しぶりかも。」


フー、と息をついた俺に、すっと向き直って、彼女が言った。 

「あなた…、真っすぐで、とても綺麗な瞳をしているのね…。あなたなら安心だわ。…あの子をお願いね…?」

そっと手をにぎられた。 

「アンジールの事は、俺にまかせて…!」

ザックスもその手をギュッと握り返した。 

アンジールの母親に、そう言われ、さっきまでのモヤモヤが、吹き飛んだ気がした。


とても温かくて、優しい手…。

大きさは違うけれど、アンジールと同じ、優しい手。


「必ず俺が連れ戻すから」
そう告げて、ザックスは家を後にした。
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