再会の扉(長編小説)

□暗闇の先の歪んだ愛
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 ああ…早く… 
 ここまで追い付いて  そしてその手で俺を… 



久しぶりの二人きりの任務でウータイに来ていた。


「アンジール!見て見て!あの沢山の青い光って、もしかして蛍!?」


好奇心で瞳を輝かせザックスが叫ぶ。


「ああ、そうだ。ウータイは蛍の数少ない棲息地のひとつらしいぞ。」

「すごく綺麗なんだな…。俺初めて見た…。ちょっと感動だよ…。」 


碧い瞳に蛍の光をキラキラと反射させ、その場に立ちつくすザックス。


いつもなら“任務中だ、集中しろ”と小言を言う所だが。 


今はこの穏やかに流れる時間が何よりも愛しく感じて、俺は静かにザックスの髪にキスを落とした。 



…あれは予感…だったのだろうか…。




「剣よりもお前の方が大切だ。…ほんの少しな。」

そう言いながら手を差し出した。

満面の笑みで嬉しそうに俺の手をとるザックス。


その愛しい笑顔を見るのがこれで最後になろうとは。           

その後見るお前はいつも 怒ったような 困ったような、今にも泣き出しそうな表情ばかり…。


そうさせたのは俺。 



あの日幼なじみから
聞かされたのは 
絶望という名の真実…。 

彼のように復讐めいた凶行に奔る気にはなれず。 

かといって、もう元の世界には戻れるはずもなく。



 夢と誇りを一度に失い

  暗い闇の底に

深く深く  沈んでゆく…  


俺の中で何かが少しずつ狂い始める音がする。 


このままでは俺の細胞が禍の元になるだろう。 


だからザックス。俺を殺してくれ…。
それこそが残された唯一の光。 


お前のその手で 俺の心臓に剣を突き立ててくれ…。

ああ、なんて甘美な死。  

その瞬間を想うと 指先にチリチリと悦びが走る。 

そしてお前の心に 
 消えない哀しみと 
  抉るような深い傷を
刻みつけて逝く俺をどうか許しくれ…。 


誰よりも誰よりも
 大切に想っているのに 
最期に遺すのは 
  歪んだ愛のカタチ 


  そして俺は
お前の足元にひざまずき
 この愛の許しを請う…

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