恋姫無双【記紀奇跡】

□赤白の章
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 街を駆け抜けたあの脱走劇の後に再度軟禁(実質監禁)された石動神楽は、現在自分が放り込まれた部屋でベッドに横たわっていた。当初の予定通り、公謹とやらが帰ってきたら再度訊問をするので、それまで待機、との命令だ。言いつけを破って脱走した神楽を、どうやら孫策は一時的に見逃してくれたらしい。だがこれで刺客やら妖やらだと決め付けられたら確実に首が飛ぶだろう。気の弱い神楽は、今からもう既に胃がキリキリと参っていた。

 しかしだからと言って不貞寝していても始まらない、というか終わってしまう。その公謹とやらがどんな人間かは知らないが、故に神楽は取り合えず自分がどういう人間か、そしてそれを証明するための方策を練っている最中である。

 一先ず用意したのは、砂の入った大きな皿。そして携帯。加えて孫策から返してもらった学生証。それらは全て机の上に置いとく。あとは、公謹とかいう相手が論理的思考の持ち主である事を祈るしか無かった。というか石動神楽自身が未だ信じきれない荒唐無稽な話なのに、それを論理立てて説明しろとか、無茶難題も良い所である。

 ごろりと寝返りをうち、顔を枕に埋めて神楽は、「……胃薬欲しいなぁ……」と呻く。言葉が空虚に沈むや否や、部屋の扉が開かれた。下手したらソレが地獄の門に早変わりだ。そうならないよう、神楽は腹の下に力を入れて上半身を上げる。


「やほー。覚悟は出来た?」


 扉の向こうから出てきた孫策が気軽に話しかけるも、「出来てませんから明日来てください」とは言えない神楽は苦笑を返す。
 
 扉から入ってきたのは、孫策と黄蓋、そして恐らくは公謹という名の女性だった。その女性も女性で、中々に豊満なスタイルをしている。三人とも妙齢な女性で褐色。そして眼力鋭い。なんだろうこの世界は、アマゾネスの集落にでも来てしまったみたいだ。と神楽が思ってしまうのも無理は無い。


「周揄だ。貴様の尋問官の一人と思え」


 新しい登場人物は周揄という名らしい。

 長く綺麗な黒髪に、やっぱり服装は何処かチャイニーズスタイル。大きく開いた胸元から零れ落ちんばかりの超乳を曝け出し、赤縁眼鏡の奥から凄まじい眼力が神楽に注がれている。

 この人が公謹と言う人だろうか、名があったり字があったりと忙しい国だ。


「……石動、神楽です」


 大きく開かれた胸元と鋭い眼光のダブルパンチで、またしても神楽は相手と眼を合わせられない。どうかせめて自分の前だけは露出を控えて欲しかった。

 当然、そんな神楽の心模様に気付かなかったのかどうでもいいと断じたのか、周揄は早速質問をぶつけた。


「ではまず、生まれは何処だ?」

「東京の多摩です。国は日本」
 
「ニホン? それは何処にある国だ?」


 孫策も黄蓋も東京を知らなかった。だから周揄の疑問も有り得るだろうと読んでいた神楽は、必死こいて思い出した名前を口にする。


「恐らく、ココから東だと思います。ボクの推測が間違っていなければ、海の向こうに島国があって、そこが「日本」、もしくは「倭国」です。あるいは、日出国、だったかな?」

「東方……。遥か昔、徐福が向かったとされる蓬莱の事か……? しかし貴様、どうやってその推測を立てた?」


 呟き、されど周揄は自分の思考を切り上げて神楽を責める。


 
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