恋姫無双【記紀奇跡】

□赤の章
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 何処からか聴こえてくる雀の鳴き声に、少年は眠りから目を覚ます。

 学校指定の、何処にでもある黒い学ラン。それにすっぽりと覆われるような、そんな少年だった。まだ子供の心が抜け切れてないような、あどけない顔立ちをしている。肌は雪花石膏〈アラバスター〉の如く白。学ランと相俟って、その白と黒は互いを際立たせていた。

 だが、それらを更に際立たせているのは、その髪色だろう。鉄の錆びた色のような、赤茶色の髪である。見た目は硬そうでも、その白い肌に赤茶の髪は、さらさらと流れていた。その髪質と、そして生え際から、その色が決して偽者(髪染め)では無い事が伺える。それが地毛。天然色の赤茶髪。

 そんな、奇異な色合いを持つ少年は、学ランの前をきっちりと閉じながら、柔らかい天蓋付きベッドの上で目を開けた。

 くりくりとした大きめの瞳が天井を映している。その天井が見慣れない事に気付いた少年は、その眉をひそめつつ、どんどん垂れ下がらせていった。傍から見ていたら、子犬か何かの小動物ちっくな顔に見えたことだろう。


「……なに、ここ?」


 少年・石動神楽は、現状の認識を上手く理解出来ていなかった。壁が、自分の部屋の壁では無い。黄土色の壁土なんて使っていないし、まず壁土自体がもう既に旧文化として衰退してるのだ。婆ちゃん家以外で壁土なんて、神楽少年は見た事が無かった。

 そして、部屋の装飾物。調度品や日用品。枝か何かで編んだ椅子。二つの椅子で挟んだ大理石チックな机。机の上には水差しか何かの陶器。壁には中国か何かの量販店で売っていそうな竜の絵画。絵画と対面するように、鏡台。そのどれもが、石動神楽が買ってもいない(有体に言ってしまえば趣味じゃないし鏡台なんて使わない)物だった。何よりも今、神楽の腰掛けているベッド。天蓋付きのベッドだなんて、それこそ趣味じゃないし見るのも初めてだ。


(ボクは確か……ベッドで寝ていた筈だけど……)


 頭に疑問符を浮かべながら、神楽は辺りを見回す。日差しが差し込んでいる窓はそれこそ中国に行かなければ見られない造りをしている。身体はコレが現実な事を訴えているが、神楽の気持ちとしてはなんだか、未だ夢心地に浸っているような気分だった。

 そんな神楽少年の前で、部屋の扉が開かれる。


「お? 目が醒めたか、小僧」


 現れたのは、眼も覚めるような超乳の女性だった。チャイニーズドレス調の服をなびかせ、両脇の深いスリットからムチムチの太ももをはみ出させている。しかもガーターベルト。綺麗な薄紫の長い髪は手を入れても引っ掛からず、するすると流れていきそうだった。


「気分はどうだ? 怪我はしとらんか?」


 知らない女性が自分の心配をしている。それだけで女に免疫の無い神楽はむず痒くなるが、それ以上に何か嫌な予感が、この時既に神楽を襲っていた。


 
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