パワプロ小説

□パワプロ小説〜聖タチバナ編〜
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第壱話-部員集めから1-
<瀧川>

瀧川「聖タチバナ、流石だな。グラウンドが綺麗に整備されている」

矢部「私立のお金持ち高校でやんすから、当たり前でやんすよ」

俺は瀧川(たきがわ)。中学時代、ちょっとは名の売れた投手だったと自負している。
高校入学前、西京や帝王実業など名門校から推薦があったが、名門校からの推薦は全て断り、ここ聖タチバナに入学した。
理由は簡単、此処が弱小だからだった。弱者が強者に勝つあの喜びは、並では味わえ無い。
自分が高校レベルでも通用するかは分からないが、強くなった弱小校で、控えとしてでも名門と呼ばれる学校に勝ちたい。
それだけだった。

??「お!来たな。俺は野球部の顧問兼監督兼数学教師の大仙清(だいせんきよし)だ。よろしく」

瀧川「……ども」

矢部「よろしくお願いしますでやんす!」

因みにこの「やんす」が口癖の奴は矢部(やべ)。駿足巧打の外野手を自称している。

大仙「よし、それでは全員揃ったな、番号!」

瀧川「……1」

矢部「2でやんす!」

??「3!」

大仙「よーし、新入部員も来た事だし今年は少数精鋭で行こうと思う!」

??「少数精鋭!素晴らしい言葉だ!!君達も見習いなさい!!!」

瀧川「……二言しか喋ってないのにやたらキャラの濃い貴方は?」


??「私は太鼓望。君達の一年先輩であり、大仙先生を人生の師と仰ぐ者です」

矢部「頭でかいでやんす」

太鼓先輩は投手。最低後八人、部員集めから始める事になった。それにしても矢部は、仮にも先輩だというのに失礼な奴だ……。

第壱話-部員集めから2-
<大仙>

瀧川と矢部が来てから既に二週間は経っていた。矢部はともかく瀧川は将来が楽しみだった。
細身ながらも鞭のようにしなる長い腕。左腕で先輩の太鼓より球が速く、落差の大きいフォークと元中日のエース今中や元オリックスなどで活躍した星野らを彷彿とさせるスローカーブ。加えて申し訳程度のシュートにカットボールと、本当に数ヶ月前まで中学生だったのかと疑う程の球種の豊富さだった。俺の元で鍛えればプロも夢では無いだろう。

大仙「それでは練習始め!」

太鼓「声出していこー!」

矢部「やんす」

瀧川「……バッチコーイ」

何だ、二人とも、元気が無いな。高校の練習についていけてないのか?
軟弱者どもめ――せっかく見込んでやったというのに。

瀧川「……監督」

大仙「なんだ、もうバテたのか?情けないな」

瀧川「いえ、そうではなく……やはりこの人数で野球、というのは辛いかと」

矢部「でやんす」

なんだ、そういうことか。
俺の見立てが間違う筈がないもんな。

瀧川「……しかも、このままだと野球部は活躍出来ずに廃部になりますよ」

大仙「え!?」

いきなり何を言い出すんだ!?

矢部「廃部になったら、顧問の管理責任が問われるかも、でやんす」

大仙「そうなの!?」

嘘だろ……暢気に少数精鋭とか言ってる場合じゃないだろ――コレは凄くヤバい。

太鼓「何を言う!少数精鋭でいくと、以前先生がおっしゃったじゃないですか!」

大仙「よし、部員を集めよう。まぁなんだ、ほら、やっぱ野球部は九人居ないとイカン」

太鼓「ほら見ろ、先生も部員を集めよう……って、えぇ!?」

大仙「いやー始めから俺も思ってたんだよ。やっぱ必要だよな、部員」

瀧川「……まぁいいですけど」

俺の責任問題だと……そんなことは避けねばならん。絶対にな。

第壱話-部員集めから3-
<瀧川>


太鼓「でもどうやって集めるんですか?簡単には集まりませんよ?」

矢部「そうでやんすねぇ――」

瀧川「……生徒会長に頼むのはどうでしょうか?先輩」

この学園では生徒会の権限が異常に大きいらしく、困り事があれば相談するのが常だそうだ。

太鼓「なるほど。生徒会のご要望会議ならいけるかも知れませんよ」

「……なんすかそれ?」

一応訊いておかねばな。眼鏡が困惑していることだし。

太鼓「生徒会が強力な決定権があるのは知っていますね?」

瀧川「えぇ、まぁ」

太鼓「その生徒会が、不定期ですが、各部からの要望を聴く会議があるんですよ。それで承認されれば、急遽部員を集めたり、部の設備を強化することも可能です」

瀧川「……面倒臭そうですね」

これは本音だ。生徒会長は気まぐれだと聞く。巧く事が運べば良いが……。

矢部「そうと判れば早速突入でやんす!!」

太鼓「いや、待て待て。不定期だから開催告知がないと意見を聴いて貰えませんよ」

そんな話をしていると、まるで謀った様に都合良く開催告知が有り、何故か主将の太鼓先輩ではなく、俺が出向く事になった。

+数時間前+

瀧川「……さ、部活に行くか」

『わぁ!生徒会メンバーが廊下をお通りになるぞ〜』

『マジかよ!!』

『ワァァ-!』

瀧川「……は?」

何の騒ぎか解らなかった。まるでどこかのスターでも現れたかのように、廊下は騒がしく、熱狂的な歓声に包まれている。

『生徒会メンバー四人揃い踏みよ』

『やっぱ揃うと威圧感あるなぁ』

聞こえて来る声は、どことなく説明臭かった。
役員は四人だけか。よく手が足りるものだ。

??「皆元気にしてるー?困った事があれば、生徒会までいつでも相談にきてねー♪」

瀧川「……あれが会長か?」

矢部「会長の橘みずきちゃん率いる生徒会でやんす!なんと役員を一年生のみで構成したみたいでやんす」

瀧川「……なんとまぁ、無茶苦茶な」

矢部「しかもこの学校じゃ生徒会が、全実権を握ってるでやんす。先生よりも偉いでやんす!」

先生より偉いだなんてどこの漫画なんだか。

橘「あれ?君達見た所外部入学生ね」

矢部「わぁ、入って来たでやんす」

瀧川「……まぁ宜しくな。生徒会長さん」

矢部「オ、オイラ達は野球の特待生で入って来たでやんす」

瀧川「……俺は、一応学業特待生でもあるがな」

橘「野球……」

ん?何か琴線に触れたかな?

橘「いや、何でもないよ。そうだ、良い機会だから生徒会のメンバー紹介しよっかな」
瀧川「……ありがたいな」

頼んでもないのにしてくれる辺り、良い奴なのかも知れない。

橘「まっかせて!! まずは会計の原啓太君!」

原「お金の相談やったら任せてや!」

瀧川「……よろしくな」

橘「そして書記の宇津久志君」

宇津「男に優しくする趣味はないが……困った時は助けてやらなくもないよ」

瀧川「……覚えておこう」

橘「最後は副会長の大京均君!」

大京「大京です。聖タチバナの秩序は私たち生徒会が守ります」

瀧川「……頑張れよ」

矢部「なかなか個性的なメンツでやんすね」

瀧川「……俺たちが言えた義理じゃないがな」

大京「みずきさん、会議が始まります」

橘「あ、そう?んじゃま、困った事があったら、いつでも生徒会に言ってね」

矢部「わかったでやんす」

そして歓声に応えながら、生徒会メンバーは悠々と廊下を凱旋していった。
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