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□dear
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「今日も元気か野球馬鹿共!」
罵倒としか思えない始まりでテレビがノイズを散らした。画面に写る少女はそれはそれは憎たらしい笑みを浮かべてちゃんと練習しろよ特に阿部バカヤお前は性格の矯正から始めろと指を指して言い放った。画面を隔ててると分かっていても静まらないこの気持ちはなんだ。
「今日ビデオレターを送ったのは他でもない千代の頼みだからでお前らには1つも用はないんだけどな。でも折角だからありがたいお言葉の1つや2つくれてやらないでもない。心して聞けよヘタレ共」
イチイチ勘に障る女だ。
「お前らは健康な高校生男子だからヤりたい盛りだろうが病気にだけは気を付けろよ。とりあえずゴムは死んでもつけろ」
なんの話してんだこの馬鹿女
「あとな、パチンコは北朝鮮に金が流れてるんだってよ。死んでもやるな。お金足りなくなったら、そうだなぁ、水谷あたり恐喝しとけ」
お前が恐喝されろ
「ちなみにこれ2チャンネルの情報だから鵜呑みにすんなよ。情報の選別くらい自分の頭でやれハゲ共」
画面カチ割りてェ
「あとな、人を見かけで判断するなよ。胸大きいからって頭に養分いってないとか思ってんじゃねぇぞカス」
微塵も思ってねぇよ
「胸小さいからって頭良いとか勘違いしてんなよ。まな板よりないよねってふざけんなよなんなんだよ胸で人判断するやつみんな死ね」
逆切れすんな
つまり何が言いたいんだお前は
「お前らは毎日太陽の下でのんきに光合成してんだろうけどこっちは暇すぎて毎日死にそうなんだよなんとかしろ!」
無茶言うな
「夏過ぎたら見舞い来いよ。頼みじゃねぇよ強制な。来なかった奴す巻きにして屋上から吊るす、ぜってぇ吊るす」
とうとう恐喝し始めた
「分かったら返事しろよ野郎共」
どこの海賊の号令だ
聞こえるわけのない返事を待つためかなんなのか、彼女はそこで一息おいた。
もうテープの残りも少ない。
まあ、あの、なんだ、とかいう歯切れの悪い言葉の後、不意に彼女が画面に近づいてきた。
「西浦高校野球部」
笑った
「夏大頑張れよ」
その言葉を最後に画面一面に青を写し出したテレビ。…ビデオが切れたのか。
もう何周したかわからないビデオがまた音をたてて巻き戻しを始めた。どう頑張っても何度足掻いても、その先を写してはくれないビデオが巻き戻る。
キュルルルル
たまらなくなって画面を叩いた。
2回、3回、
手が赤くなっても叩き続けた。
おい、お前があんなに焦がれ続けた秋は、馬鹿みたいに毎日雨ばっか降ってるぞ
拝啓 君 へ
20100623