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□モンスターボールの中
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「モンスターボールどっかに売ってねぇかな」
ふと漏れた声に普段なら反応しないであろう女が振り返って俺を見た。
この前今日の髪型可愛いじゃんと言ったときはガン無視ブッこいたくせに、どうしてどうでもいい話には興味示すんだこいつ。
「猛獣をボールにするなんてえげつないこと考えるね」
「いや、そういう意味じゃなくてね。もしかしてお前ポケモン知らないの?」
「ボケ者?島崎のことでしょ」
「違うから」
「嘘だぁ」
「名前からして違ぇよ。ボケ者じゃなくてポケモンね」
「知るかよ」
「(開き直った)」
ピコピコとDSのボタンを押す手を止めない彼女を俺はジッと見つめる。今や彼女の興味は俺にはない。
「やった!クサイハナになった」
「お前ポケモンやってたのかよ!知ってんじゃねーか!」
「え?私がやってんのはポケットモンスターだよ」
ポケモン?なにそれ?
真顔で言った彼女が真のバカだと初めて悟った。バカだバカだとは思っていたけど救いようのないバカだった。
「モンスターボールってこの丸いののことかぁ」
「下に説明でてんじゃん。何だと思ってたの」
「なんかやたらマルマインがいるなって」
「明らかおかしいだろ。気づけよおかしいだろ」
「で、なんで島崎はモンスターボールなんか欲しいの」
くるりと再び振り返った彼女は、いまだに目はDSを見たまま。
つーか何でクサイハナの名前島崎にしてんだよ。島崎頭に花咲いてるじゃんじゃねーよ。お前と一緒にすんな。
はあ、と浅くため息をついて俺は答えた。
「捕まえたい猛獣がいるんだよ」
「なにそれ、レア物?」
「まあ、珍獣かな」
「スーパーボール使った方がいいんじゃない」
「まあ……捕まえられたらなんでもいいんだけど。つーかモンスターボールなんかに捕まんなさそうだし」
「イラってくるね」
「本当にね」
「私も欲しいな、モンスターボール」
「へえ?」
「反応薄いな。どうしてとか聞けよ」
「どうして」
「捕まえて跪けたい」
「お前ね、危険思想って言うんだよそれ」
「可愛がるのに」
「だいたい跪けてどうすんの?」
何気ない俺の一言に彼女はキョトンとした顔をした。どうする、なんて考えたことなかったかもと呟いて考え込む。答えに詰まった彼女を何の気はなしに見つめていたら、突如彼女の顔がドアップで迫ってきた。
「なに」
「いや、」
「俺そんな変な質問した?」
「いや、なんつーかさ、」
「なんだよ」
「島崎はどうされたい?」
モンスターボールの中(跪けたいって、俺かよ)
for愛すわダーリン
ありがとうございました