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□正義のロリコン
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なんにでも正義と悪は存在する。しかし誰の正義も悪も共通なんてことはこの広い世界あり得ないわけで。誰かにとっての正義が誰かにとっては悪なんてことはざらにある。かく言う私の正義も幼なじみのアレンからすれば悪らしい。育ての親を悪だと言い張る彼も彼だが、こんなのを正義と思う私も私だ。
「という話をこの前アレンとしましてね」
「ほーう」
「深く語り合っている間にお互い意見も変わりまして。最終的にはやっぱり師匠は悪の親玉だという結論に達しました」
「へーえ」
「略して悪玉菌」
「…カナヅチどこにある」
「ここにありますよ。何に使うんですか」
カーン
「、たぁ!何するんですか!」
良い音で鳴った額を左手で抑えながら思わず師匠の襟首を掴んだ。
投げられた。
「人をなんだと思ってんですか」
「お前はなんだと思うんだ?」
「可愛い弟子」
「……ハッ!」
鼻で笑われた。
「別に照れ隠しなんてしなくていいですよ。師匠が私のことを可愛くて仕方ないことは周知の事実ですから。路上にたたずむ絶世の美幼女だった私を思わず連れ帰ってしまった気持ちも分かりますこのロリコンめ!」
「路上でふてぶてしく座り込んでたお前が突然狂ったようにマツボックリ投げつけてきて、拾ってくれなきゃ呪い殺すって脅したのも10年前の話か。あの頃に戻って殴りてぇな」
「デレデレ嬉しそうに罵られてましたよねマゾが」
「お前夢見るのも大概にしろよ」
「そんな幼女も今年で16になります。どうしますか、結婚しますか」
「寝ぼけてんじゃねーぞ」
「師匠が大事に大事に育ててきた幼女がさなぎから蝶になる瞬間ですよ」
「アホから救いようのないアホへの間違いだろ」
煙草の紫煙をくゆらせながら窓の外を眺めていた師匠が、徐に私の顔を見た。
「アホなことばっか言ってんな」
「アホとはなんですか。師匠を人生の墓場に貶めたいという立派な願いのどこがアホですか」
「アホそのものだろう」
「あ、心配なんですね、他の男にとられるのが。ヤキモチなんて可愛いで、」ゴツン
カナヅチが宙を舞った。
「た、タンコブが!」
「ああ、手が滑った」
「どう滑ったらカナヅチが飛ぶんですか。どう滑ったら真っ直ぐおでこに直撃するんですか」
「ヒデェ顔」
「師匠のせいでしょ、このドえひょっ」
言いかけた言葉は師匠の必殺ほっぺた潰しにせき止められた。私の両頬を自身の左手で押し込める彼の目は、どことなく楽しげに輝いている。マゾなんかじゃない。こいつは真生のサドだ。
「不細工」
「しひょーのせひです」
「こんなんじゃ嫁のもらい手もいねぇだろうよ」
先ほどのカナヅチ乱舞で負傷した額に手が伸びる。ピリッとした痛みに顔を歪ませると更にデコピンが待っていた
「、ったぁ!」
「お前のデコ、酷いぞ」
「だからそれ師匠のせいですよね!責任とって病院に連れてってくださいよ」
「整形か?」
「しねーよ」
美女の顔が歪んだらどうしてくれると物申せば、勝ち誇ったように鼻で笑われた。涙目になっているのはこのズキズキ痛むおでこのせいだ。断じて言葉の暴力が痛いなんて理由じゃあない。断じて。
「責任取ってやるよ」
「当たり前です。さあ出せ慰謝料」
「慰謝料?俺なりのやり方で、だ」
言うが早いか無遠慮に引かれた身体は窓横のベッドへ急降下した。何故。ドサリと着地した場所は師匠の足の上で両手はがっちりホールドされてて師匠の顔を見やればおまえ明日は起きあがれねーなとか嬉々としてのたまってるとかそんなの嘘だ夢だ幻想だ。
迫る恐怖に為すすべなく最後の雄叫びを上げた。
「このロリコンめ!」
正義のロリコン
(やっぱ悪の親玉だ)
20110107