D4
□機種変更
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新しい携帯を買った。別に何か用事がある訳じゃないけどあいつに電話したくなった。そういやあいつタダ友じゃん。口実はそれでいこう。
「よう」
『バカだよね?バカなんだよね?』
「お前電話出た途端それはどうなんさ」
『朝方5時に電話かけてくるお前はどうなんだよ。くっそ、もう少しでぷよぷよ18連鎖するところだったのに』
「あら、起きてたん?」
『寝てたよ。夢の話ですー』
「夢の中でまでぷよぷよすんなよ」
受験で忙しい高校3年生とは思えない言動だ。呆れながらも口が笑う。
『で?』
「うん?」
『こんな時間に電話かけてきたからにはとてつもない急用なんだろうな?泣き叫ぶくらいの用事なんだろうな?』
「どんな用事だよそれ」
『早く用件を言いたまえ』
「……あー」
『ルミニウムの上にミカン乗せるギャグをどう思うかって?笑止千万』
「勝手に俺の用事を作るな」
『うっわー朝日が上ってきたよー嫌だよー』
「うっそ、家まだだけど」
『ついにダークサイドに落とされたか』
「お前ダークサイド勘違いしてるよね。スターウォーズ見直せってあれほど言ったさ」
『だってアレンが私が貸したスターウォーズ全巻売り飛ばしたんだもん』
「最低の極みだな」
『うっぎゃ、朝日が目にはいったーヤバい灰になるー』
「落ち着けお前は人間だ」
『うるさいダークサイド』
些か眠そうに弛んだ彼女の声が耳に甘く残る。甘さが微塵もない応酬のくせに。
なんだこれ。電話で話すのが妙に焦れったい。
『眠い、切るよ』
「嫌」
『こっちが嫌だよ。今日日直だから朝早いんだよ』
「駄目」
『いやもうお前が駄目だから。人間世界の常識考えて』
「授業中寝れば良いじゃん」
『なんて極論』
「俺が電話した理由分かんねーの?」
『は…?』
分からん。
簡潔にそう述べられた。
だからこいつは鈍いんだ。
『なんだ、用事あったの?』
「鈍いなお前」
『お前が分かりづらいの』
「こんな朝っぱらから電話したわけさ。俺が、お前なんかに」
『良く分からんが殴るぞ』
「しかも携帯変えて初めての電話。俺の初めてをお前が奪ったわけ」
『その表現やめろ。つーか頼んでねーし』
「こんな粗暴で口の汚い女の声をこんな明け方に聞きたくなったんさ、分かるだろ?」
『悪口言いたいだけだということは良くわかった』
「つまりタダ友最高ってことさ」
『携帯他社にしようかな』
ようやく明けてきた空を見ながら適当に相槌したら、何笑ってんだよ変態と罵られた。変態上等。