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□ろくでもない女の話
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「困る顔を見るのが好き」


飄々とした表情で彼女は言った。


「困る顔、怒る顔、他にはそうねぇ……泣き顔も好きよ?」

「ろくでもねェな」

「なによ。ティキが私の性格が歪んでるって言うから誤解を解いただけじゃない」

「確かに解けたな。間違いなくお前の性格は歪んでる」

「違うわ、性格じゃなくて性癖が歪んでるの」


誰の泣き顔見ても興奮するわけじゃないんだからねとふんぞり返って彼女は言うが、明らかにそれは胸を張って言える内容じゃない。


「私、ワイズリーの困った顔見るの大好きなの」

「そりゃ奴もご苦労なこって」

「怒った顔もね、最近良く見せてくれるのよ」

「ああ、そうだねそうだよね。お前があいつ放ったらかして俺のとこばっか来るからあいつめちゃくちゃ怒ってるよ。ご飯とか俺の分だけ机にないんだよ床にあるんだよ。なにか言いたいことは?」

「ありがとう感謝してる」

「そこは謝罪しとけよ」


今日も今日とて大事な彼氏さんをほっぽって俺の元へ走ってきた少女は、悪女の微笑みを浮かべながら俺の膝に跨がった。
……今日の夕食はきっと便所にあるな。


「困った顔も好きなんだけどねー」

「あ?」

「泣いた顔の方が見たいの」

「泣かないの?あいつ」

「ティキだって私の前で泣いたことないじゃない」

「男がそう易々と人前で泣けるかよ」

「ワイズリーも同じこと言ってた。男って馬鹿ばっかね」

「うるせー、男は繊細で意地っ張りなんだ」

「ふーん」


分かったような分かってないような曖昧な返事をして、女は俺の首に絡み付いた。もともとスキンシップ過多な奴ではあったがさすがにこれは初めてだ。バレたらワイズリーに殺される。


「なにして、」

「ねぇ、ティキ」

「取りあえず離せ」

「どうしたらワイズリーは泣いてくれるかな」

「あ?」

「どうしても見たいの」

「知るかよ」

「ねぇ」

「……」

「ねぇってば」

「あー、もう……浮気でもすりゃあ良いんじゃねーの」


バッカじゃないのティキみたいに年中発情期じゃないんだからそんなことするわけないでしょ、本当にバカね。


そう言って蔑まれるだろうことを見越して構えていた俺に、返ってきたのはあまりにも予想外な言葉だった。



「いいね、それ」

「…何言って」

「しよっか浮気」

「冗談だろ?やめとけ」

「冗談じゃないわよ。どうしても見たいの、ワイズリーの泣き顔」


そんなことのために、と説教モードに入りかけた俺の口を彼女は塞ぐ。湿った音と吐息が混ざれば、後はもうすべてがなし崩し。





ろくでもない女の話

(どうしようもない奴)





20100616

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